■PRIZONER 〜ゾロ
―風にあたりたい―
そう思ったナミは甲板へと出た。見事な満月が、夜とは思えないほどの光を船に与えている。
今夜は波も風も穏やかだ。この分だと船は予定通り進むだろう。針路をチェックすると、ナミはぼんやりと先程の夢の事を考える。
気にすることないわ...ただの夢だもん。でも、怖かった―
自然と浮かんだ「怖い」という言葉で、ナミは自分自身に腹がたった。
やだな...怖いって、私いつからこんなに弱くなったんだろう―
「・・い」
夢くらいで―
「おい」
あいつに必死に助け求めるなんて―
「おいっっ!!」
「うるっさいわねっ!!」
思わず振り向くナミの目の前に、いらついた様子のゾロの顔があった。
「きゃぁっ、あんたどっから湧いて出たのよっ」
「俺はボーフラじゃねぇし、さっきから呼んでんだろがっ!! 寝ぼけてんなら部屋に帰れっ」
思わぬ偶然にわずかに動揺するナミに構わずゾロは口を開く。
「なぁ、今夜は天気いいよな?」
訳のわからない質問ではあるがとりあえずナミは頷く。
「じゃ、決まりだ。酒飲んでも構わねぇな。・・・どうする? お前もやるか?寝るつもりならいいけどよ」
応えを待たずキッチンへ向かうゾロをしばし呆然と見つめるナミ。
「・・・眠いんならこんなとこいないわよっ」
一人ごちるとキッチンへ向かう。
ナミがキッチンの扉の前まで行くと、ちょうど扉が開いてゾロが出てきた。
「あんた..飲むんじゃなかったの?」
ゾロは酒瓶とグラスをナミに見せると、上へ向けて親指をたてる。
「今日の見張り当番は俺だからな」
「あんたって、変なとこで律儀よね」
ナミはゾロに続き、見張り台へ上っていく。
ゾロは、どかりと腰を落すと、ほらよっとナミへグラスを渡し、なみなみと酒を注ぐと、自分は瓶に直接口をつけて飲みだす。
情緒もへったくれもない状態にナミは密かに嘆息し、グラスをあおる。
バーボンの苦味が今夜の気分にちょうどいい。目の前にゾロがいる。杯を重ね、少し酔いが回り始めた頃、再び先程の問いに行きついた。
私、何でこんなヤツ最後に選んだんだろう―
視線を感じたのか、ゾロはナミを見て問いかける。
「んで、てめぇはなんで、あんなとこにいたんだ?」
「私にだって眠れない夜くらいあるわよ」
ふぅん、とそれだけで関心を失った様子でゾロは飲みつづける。
バカみたい、私・・・こいつが私の為に、なんて期待でもしてたのかしら―
ぐいっとグラスを空けるとわざと冷たくゾロに言い放つ。
「別にあんたに女、寝かしつけるなんて芸当期待してないけどね」
ナミは、空のグラスを差し出しお代わりを要求する。
前触れも何もなかった。
ゾロは無言のままその腕を掴むと、乱暴にナミを引き倒す。
ナミの手から離れたグラスが、はるか彼方に落ち...
微かにカシャンと割れる音がナミの耳に届いたときには、既にゾロに組みしかれて
いた。
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