「ちょっと、ゾロ、口閉じてみて」
何の脈絡もなくナミが言うので、逆にゾロは口を開けた。

「あ?」
「いいから!」

ナミは強行手段とばかり手のひらで顎を押し上げる。
「ぐっ!!」
「どう? ビビ」

ビビは開いた本を片手に持っている。その表紙には『観相学』と書かれてある。
ナミの言葉を受けて、ビビは本とゾロの口元の間で何度も視線を往復させる。

「う〜ん、微妙なんだけど、これかしら?」
小首を傾げつつビビは本の上部を指差す。

片手でゾロを固定したままナミは、どれどれと身を乗りだす。
「・・・じゃ、読みますね」
咳払いを一つ、ビビが本の一節を読み上げる。

「『"上唇が下唇よりも厚い人"は愛されるよりも愛することを好み、献身的に尽くすタイプ』ですって!」

このこの、と小突くビビにナミはそうかしらと首を捻っている。

「『でも、素直でお人よしなところが災いして人に利用されてしまうことがあるので注意して下さい』だって〜」

顔を見合わせて吹き出すビビとナミ。笑いを堪えながらビビは最後の一節を読む。

「『お金やものを貢ぎ過ぎないように要注意』っく、くくくっ・・・」

限界とばかり身を捩る。ナミはというと空いた片手でゾロの胸板を叩きながら笑っている。

「てめえら・・・・・・」
顎を固定されたままゾロが唸る。

「好き勝手なこと、言ってんじゃ―」
聞く者全てを震えあがらせるような低い恫喝は、ビビの邪気のない一言であっさりと封じられた。

「でも当たってますよね」


うん、当たってる


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