蜜柑に昼寝を邪魔された。
段差に背を預けて寝ていたところを落ちてきた蜜柑に襲撃されたのだ。
たん、と床に落ちた蜜柑を拾う。
衝撃で割れた皮の隙間から甘い匂いがする。
それは自然とナミを思い起こさせる。昼の爽やかさを、夜の甘やかさを。
だから、それはほんの気の迷いだった。
皮を剥く手を止めて、口づけた。
次の瞬間。
「へぇ、可愛いことするじゃねぇか、てめぇも」
最悪だ―
よりによってコイツに、こんなトコを。
手遅れなのは分かっているが睨みつけずにはいられない。
「そんな怖い顔すんじゃねぇよ」
サンジはそう言ってへらへらと笑う。全く頭にくる顔だ。
「てめぇの気持ちもわからねぇでもないからな、ナミさんのあの可憐な唇にそそられねぇなんて男じゃねぇ。かと言っててめぇみたいな朴念仁が彼女を口説き落とせる訳もねぇだろうし―」
慣れ慣れしく肩を叩きながら笑う。本当に頭にくる顔だ。
「思い余って蜜柑にチューなんて気持ちも・・・・・お、噂をすれば!
ナミさぁ〜ん!!」
階段を昇ってくるナミに手を振りながら何度も俺の頭を小突きやがる。
「まぁ見てろ、その内俺が―」
うるせぇ、黙れこの野郎。
頭にきた、完全に頭にきた。
てめぇが見てろよ、アホコック。
にやにやし続けるサンジの手を払い、ナミの腰を引き寄せる。
悲鳴か抗議か開きかけた口を思いきり塞ぐ。
舌を絡めれば暴れていた身体から力が抜けていく。
蜜柑よりも遥かに甘く柔らかな唇にのめり込みそうになる前に用事を一つ。
アホ面のコックに蜜柑を投げる。
てめぇに渡せるのはせいぜいソイツぐらいだからな。覚えとけ。
|