グラスを傾けながらナミが出してきたのは一冊の本。
「タマにはこういう感動ものもいいわよねぇ」
表紙には『タイタ○ック』
ナミ曰く沈没船を舞台にした愛のドラマだと。
うっとりとして切々と語るナミに、航海士としてその題材の選択は如何なものか、
と思わないでもなかったが大人しくゾロは聞いていた(或いは聞き流していた)
そのゾロの目の前にナミはとあるページを開いて突きつける。
それは知らぬ人はないとも言える超有名な場面。
船首に立つヒロインを主人公が抱きしめるくだりだ。
「素敵でしょ〜、タマにはいいわよねこういうのも」
目をしばたかせながら、つらつらとその部分を読んでいたゾロ。
みるみるうちにその顔が赤くなっていく。
―俺にやれってか、コレを俺に!!―
そんなゾロに向かってにっこりとナミは微笑んだ。
瞳を閉じ、船首に立つナミの後ろにゾロがいる。
立ち位置的には物語とそっくりなのだが、ただ一つ違うのは主人公の立ち居振舞い。
苦々しさと照れを足して二で割ったような表情と、誰にも見られてやしないかとあたりを伺う挙動不審ぶり。
対して、前に立つナミの髪は風になびき、海を割って進むその身体はあたかも空を飛んでいるかのようだ。
その涼やかな様子に惹きつけられるように、ゾロはそろそろと腕をナミの華奢な身体にまわそうとして――――――
吹っ飛んだ。
「ナミさんを突き飛ばそうとはふてぇ野郎だ、このクソマリモっ!!」
油断した所にまともに蹴りを食らって、ごろごろと転がるゾロが目にしたのはしっかりとサンジに抱きとめられてしまっているナミだった。
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