字書きさんに100のお題


  100.その形<サンナミ> Date:  
「そん時の跡がコレ」
そう言ってサンジが差し出した親指の先を、ナミはしげしげと見つめた。
確かに爪の生え際に、丸く切り取られたような跡がある。円の中の皮膚は周囲の皮膚よりも幾分色が薄かった。
サンジは苦笑の形に唇を歪めて見せた。
「千切りとか飾り包丁入れるんじゃなくて、トマトを二つに割るのに指の先落としそうになっちまったんだよ。我ながら情けない」
サンジは自分の目の前に親指を向ける。
「目の前でプラプラ揺れるんだぜ。皮一枚で。俺、ガキだったからビビって固まってたのよ、そしたら」と肩を竦める。「誰かが絆創膏投げてよこしてさ、それ貼っとけって」
「それで?」
「それで終わり」
「終わり!?」
それを聞いて、我が事のように痛そうに顔を顰めたナミに気づき、サンジはゴメンゴメン、と笑顔でナミの頭を撫ぜた。
「でもホラ、バッチリくっついたから」
「海の一流料理人の陰の勲章ね」
サンジの笑顔につられるように、ナミは表情をゆるめ、私も、と右手を翳した。
左の人差し指で、右手中指の爪の下辺りを撫ぜる。
ほっそりとした指の、そこだけが膨れて硬くなってしまっている。
「子供の頃からペンを握ってたから、ここだけがこんなになっちゃった」
差し出された手のひらに、ナミは右手を乗せる。
サンジが落とした視線の先には、小作りなその手に不似合いなペンだこがあった。
その原因はテーブルの上に転がっている。今さっきだって、ナミは海図を広げて細かな書き込みをしていた。
「これも立派な勲章だよ」
サンジはナミの手の先を包み込むと、硬くなってしまったその場所を愛おしむようにそっと撫ぜる。
「これが俺達を・・・・」
そこでサンジは一旦言葉を切り唇を結ぶ。やがて、少し照れたような柔らかな笑みを浮かべて言い直す。
「・・・・・俺を生かしてくれる」
その言葉を心に深くしみ込ませるようにナミは目を閉じ、穏やかな顔でうん、と頷いた。
「サンジ君の手だって、ね」
そう言いながらナミはサンジの手のひらに自らの手のひらを合わせる。

くすぐったい位に愛おしくて誇らしい。
けれどそれだけではないこの気持ちを何と呼べばいいのだろう。

ゆっくりと、そして確かに。
重なり合った勲章は、そこから二人に温かな思いを伝えた。

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