字書きさんに100のお題


  36.プラネタリウム <サンナミ> Date:  

「ジャーン!!」
得意顔のウソップが、やや勿体をつけながら手にした白い布を引いた。
何事かとクルーが覗き込む。キッチンのテーブルの上、取り払われた布の下から現れたのは、何に使うのか一見分からない謎の機械だった。
木製の台座に斜めに嵌め込まれた支柱。その先に円筒状の傘がついている。外観は、スタンド式のランプに似ているが、それにしては随分と傾きが激しい。
「何だ? これ」
至極尤もな質問にウソップは、まぁ待て、と両の手を広げた。
「百聞は一見にしかず、だ。おい、お前らちょっとこれ持て」
野郎共に指示を飛ばし、ウソップは先ほど払った布を今度は天井に張らせた。頭上を覆う白い布を見上げて一つ頷くと、ウソップは謎の機械についている傘を外す。斜めに伸びた支柱の先、傘の内側に備え付けられていたのは小ぶりの貝殻だった。
「これってもしかして貝(ダイアル)?」
ナミの問いに、ウソップはニヤリと笑ってその殻頂を押す。繊細な貝殻から白い光が零れた。"灯貝"(ランプダイアル)だ。
「よーし。他の明かりを落とせー」
暗闇の中、テーブルの上で"灯貝"だけが光を放つ。ウソップはその上に傘を戻した。
「わぁ!!?」
思わずナミが歓声をあげる。
キッチンの天井に広がったのは、幾つもの星の輝きだった。


「まだ見てたんだ」
テーブルの上に投げ出した左腕を枕にして星空を見上げていたナミは、その声に身を起こした。
「よっぽどお気に召したようで」
笑い含みにそう言って、サンジはテーブルに近づく。
「ここんとこずっと天気よくなかったからね」
確かに、冬島の気候海域の中で、ここ数日晴れた空をみた記憶がない。
「ウソップも気の利いたもの作ってくれるわね、タマには」
ほんのりと灯る明かりの中にナミの嬉しそうな笑顔が浮かんだのを見て、サンジはちぇと口元を尖らせて拗ねた表情を見せる。
「上手い事やりやがって、長っ鼻め」
それじゃあ、とサンジはナミに向かって居住まいを正す。
「俺も一つ点数稼ぎといきますか?」
そう言ってサンジは右の手を開いてナミに見せる。何もない、いつもの手のひら。それをナミの目線よりも高く上げると、手のひらを下に向けた。
ナミが見上げる手のひらには、星の光が幾つも映っている。
よ、と小さなかけ声とともに、サンジは広げていた手のひらを軽く握った。その手をゆっくりとナミの目の前に運び、サンジは握ったままの拳を左右に軽く振る。
小首を傾げて見上げてくる視線に気づき、サンジは微笑む。
「わたくしめは、姫に輝くこの星をプレゼント」
ゆっくりとサンジが手を開けば、その上でころころと小さな星が転がる。
そこにあったのは、幾つもの金平糖。
「随分甘そうな星ね」
クスクスと楽しげにナミは笑う。
「ロマンチックかどうかは微妙なトコだけど、私は好きよ」
あーん、と可愛らしくナミが口を開けたので、サンジは瞳に笑みを湛えて星を一つ摘み、小さな宇宙の中へポトリと落とした。

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