*については裏書庫に続きがあります。
表書庫


  from stem to stern Date: 2003-09-26 (Fri) 

「ホントに死ぬわよ、あんたっ !! 」
怒鳴りつけるナミの声を背に、ルフィは特等席に座ってぼんやり空を眺めている。
「そんなトコにいるから餌と間違えられるのよっ !! 」


急に現れた海獣に噛みつかれた挙句海に引きずり込まれそうになったのはついさっきのことだ。
まぁ、その海獣は、今頃自分の不運を痛切に嘆いているだろうが―

腹へったなーなどと全く反省の色のない船長。
その背に今度はナミの溜息がぶつかる。

「あんたは落ちただけで危ないんだから...
 他にも居場所はいっぱいあるんだから...」


・・・・・・・ルフィは何も言わない。


「何も、ソコじゃなくてもいいじゃない...」


ナミの方に向きなおるルフィ。
「これは、俺達の船だ。他の誰にも傷なんかつけさせたくねぇ、だから―」


続きは聞かなくとも分かる気がした。
―一番先に戦える場所に俺はいる―


落ち着いて静かな、そして自信に満ちた瞳。
―こんな綺麗な目の海賊なんて知らないわよ―


ナミは思う。本当に不思議な男だ。
自らの拳を、脚を、全身を朱に染めることを厭わないくせにその瞳は変わることなく清冽だ。


―まぁ、何にも考えてないだけかも知れないけどね―
くすり、と笑ったナミを怪訝そうに見つめた後、ルフィは口を開く。

「それにな、こいつはお前を乗せてるからな」


―え...?私...?―
「ナミがいなくなっちまったら、この船は動かないからな」

「別に私じゃなくても船は動かせるわよ」

「お前が航海士じゃないといやなんだよ...俺が...」

前に言ったよーな気ィすんだよなー、誰にだっけー、とあさっての方向を見ながら呟くルフィ。



ナミは打たれたように、身動き一つしない。
―あんたがどれ位この船を大事にしてるか、今思い知ったっていうのに―


再びルフィはナミを見つめる。
その瞳には先程はなかった柔らかさが宿っている。


―同じ位、大事に想ってくれるっていうの?私を―
「俺はこの船で、お前を世界の果てまで連れてくからな、必ずだ」

差し出されるルフィの手。
「よろしくな、航海士」

ナミはルフィの手をぎゅっと握る。


―この船は..船首から船尾まで全部、あんたのモノよ..
 あんたにはその権利が十分あるわ―

―そして、私の心も体も、あんたが必要としてくれる全てで―

合わせた手からルフィの熱い思いと優しい想いが伝わってくる。

―私の持てる全てで、自分の夢と一緒にあんたの夢を支えていくから―





ナミは掴んだその手を、くっと引き寄せる。
「今日は、お疲れ様」

とん、と床に降り立ったルフィの首を優しく抱きしめる。
「これからもよろしくね...」



そして船は進む―


絶えることない願いと夢をその糧として―





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