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  Twist & Shout <『ハチクロ』パロで> Date: 2007-03-09 
海の一流コックを擁する麦わら海賊団の食卓は、それが洋上とは思えないほど充実している。
だが、それにしても"その日"は、質、量ともにいつも以上に気合の入った夕食だった。


続々とキッチンに集まってきたクルー達は、テーブルにずらりと並んだ色とりどり、大小さまざまの皿を見て、感嘆の言葉を投げた。

ガタガタと椅子を鳴らし、慌しく席に着く。

「いっただっきまーーーす!!!」

戦闘開始の合図と共に、ナイフやフォークが目にも止まらぬ速さでテーブルの上を駆け巡り始めた。

笑い声と、怒鳴り声とが混然一体のいつもの食卓風景。その中で、ふとナミがサンジに問うた。

「そういや、今日は随分豪華よね。何? なんかいいことでもあった?」

ナミの言葉に、サンジは視線を遠くに向け、抑揚のない口調で答えた。

「今日・・・・・・誕生日なんですよね・・・・・俺の・・・・・・・」


カラン。

ウソップが取り落としたフォークが既に空になった皿にぶつかる。その音がやけに大きく響いた。

誰のものか、ゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。

周りのクルーは顔を引き攣らせ、言葉もないままに、木枯らしを身に纏ったサンジを見つめた。ただ二名を除いて。

知るか、とばかりに飲み続けているゾロと、目の前の肉にがっつくのに夢中で、そもそも話なんか聞いちゃいないルフィの頭をウソップがはたく。

「はははははは!!」

慌しく椅子から立ち上がると、ウソップはやけに朗らかな笑い声をあげた。

「やだなぁ、サンジ君! まさか僕たちが君の誕生日を忘れてたとでも思ってるのかい?」

満面の笑みを浮かべたその顔にうっすらと汗が滲んでいる。

「さーて、そろそろサプライズプレゼントでも出すとするかー!!」

ちょっと待ってろ、と言い残し、キッチンを後にしたウソップを、居た堪れなくなったらしいチョッパーが追いかける。

ロビンは、何とも言えない表情を浮かべるナミと顔を見合わせ、それから、痛々しそうな眼差しをサンジに向けるフランキー、そして、食べ続けるルフィと飲み続けるゾロに目を向ける。最後に、周囲に枯葉を舞い散らせるサンジに視線を送り、淡く微笑んで口を開いた。

「あんまり気を落とさないでね。コックさん」

ロビンの励ましに、サンジは糸の切れた人形のようにカクリと一つ頷いた。



そして十分後。

息を荒げつつ、寒風吹きすさぶキッチンにウソップは駆け戻ってきた。

「ホラ!! サンジ君っ プレゼントだよっ!!!」

あちこちに絵の具のついたその手が掲げるのは、赤、青、黄、緑の円がいくつも描かれた大きな布だった。

傍らのチョッパーは、布と同じ四色からなるルーレットを持っている。

ホラホラ、とウソップが手にした布をはためかせると、まるで錆びついてしまったかのようなぎこちない動きでサンジが首を動かした。

「で・・・・・何なの? それ」

ナミの問いかけに、ウソップは何故か胸を張って答えた。

「ツイスター・ゲーム!!」

「何それ?」

「あーー、何かあったなァ、そういうの」

聞いたことも見たこともない、といったナミの言葉に、フランキーが記憶の糸を辿るようにして解説を始めた。

「確か・・・二人で対戦で、指示された色の上に手足乗っけてくってェゲームだったよな。・・・・・・で、届かなくなったり倒れたりした方が負けってな感じじゃなかったか?」

そうそう、とウソップは頷きながら布を床に敷き、そちらを見てはいるものの力なく座ったままのサンジを無理矢理に椅子から引っ張り上げた。

「・・・と言う訳で、本日の主役どうぞー!!」

「・・・・・んあ?」

ウソップのハイテンションとは裏腹に、サンジの反応は鈍い。ウソップはそんなサンジの肩にぐい、と手を回し、耳元で囁いた。

「バカ、お前。折角俺様がまたとないチャンスを作ってやったんだ。しゃんとしろよ」

俯いたままではあったが、サンジは、ウソップの話に耳を傾けた。

「こいつァ、大人のスキンシップゲームだぜ」

「・・・・・・・・スキンシップ」

繰り返したサンジの瞳に、火が灯る。

「ゲームが続けば続くほど密着度が上がって・・・・」

「・・・・・密着度!」

サンジは力強く顔を上げた。

「終いにはくんずほぐれつに」

「くんずほぐれつーーーーっ!!!」




復活!!!




そこには、夏の爽やかな高原の風を身に纏ったサンジが、白い歯と瞳を輝かせて立っていた。


そんなサンジのもとに、テーブル上の皿を全て空にしたルフィがぐるぐると右腕を回しながら近づいてくる。

「おーー! 何か面白そうだな。俺と対戦してみっか? サンジー?」

「黙れ! クソゴム!!」

振り返りざま問答無用でルフィを蹴り飛ばすと、サンジはナミとロビンに微笑を向ける。

「待たせたね、レディーズ。さぁ、ゲームを始めようか」

「えーー!? 私達ィ?」

あからさまに顔を顰めたナミに、ウソップは慌てて声をかける。

「何言ってんだ、女子! こういうパーティーゲームは普通男子と女子でやるもんじゃないか! 何でキミ達、お誕生日サマの相手をしてやらん!?」

「何でって・・・・」

さっきのキメ顔はどこへやら、ニョホホホホと鼻の下を伸ばして身をくねらせているサンジに、ナミは溜息交じりで目を向けた。

「理由は推して知るべしじゃない?」

「あら? じゃあ、私がお相手させてもらおうかしら?」

「ロビン!?」

「ロビンちゃーーんvv」

驚くナミと、喜びを爆発させるサンジの視線を受けて、ロビンはにっこりと笑った。

「こういうゲームって今までしたことないの」


「よーし、んじゃ始めっか!」

ウソップの号令で、チョッパーがルーレットを両手で掲げる。盤の中央に描かれた円上の針をナミが指先で弾いた。

布に描かれたのと同じ四色が順に配された円の上をくるくると針が回る。それは徐々にスピードを鈍くし、やがて針の先は赤を指して止まった。

「サンジ君、右足赤」

「はーい!」

ナミの指示に、サンジは嬉々として赤い円の上に右足を乗せる。

「次、ロビン左足、黄色ね」

「はい」

するりと滑らかな動きでロビンが、サンジとは反対の端にある黄色の円に片足を乗せた。

「待ってて、ロビンちゃん。すぐそっちに行くからねー」

「アホ」

やに下がるサンジにちらりと目をやり、ゾロは小さく息を吐いてグラスをあおった。

「サンジ君、次、左足を青」

「ロビン、赤」


くるくるとルーレットは回り続け、緑、黄、青、赤と次々に進むべき色が指示されていく。

やがて、ポタリと布の上に大粒の汗が落ちた。

「・・・・ぐ・・・・ぎ・・・・」

低いブリッジの体勢から、歯を食いしばり、震える右手を伸ばしているのはサンジであった。

その首筋からまた一つ大粒の汗が流れ落ち、真下の赤い絵の具を滲ませた。

「サンジ君、もうチョイ右!」

「そこだ! 行け!!」

「よーし! OK!!」

かなり際どい体勢ながら、無事に右手を着地させたサンジに、やんやと歓声が飛ぶ。

「いやー、もうダメだと思ったんだけどねー」

「粘るなー。サンジ」

意外に楽しんでいるギャラリーに向け、サンジは苦しげな声をあげる。

「つ・・・・次・・・・早く・・・・」

「あー、ゴメンゴメン。んじゃ、次は・・・・・・ロビン、右足を緑」

「はい」

ナミが指示した途端にあっさりと緑の円に乗った足。それは、ロビンの咲かせたものだった。長い脚が二本、サンジを跨ぐ格好で布の上に配されており、ロビンはその脚の上に、まねで椅子に腰掛けるようにして自前の脚を組んで座っている。当然、爪の先すらサンジと触れ合ってはいない。

「次はコックさんね」

サンジを見下ろし、ロビンは楽しそうに笑んだ。

「えーと・・・次、サンジ君。左足、青」

「あ・・・お・・・・・・ぐくっ!!」

サンジはチラリと足元を確認すると、不自然な格好で伸ばされた右足の下に無理矢理左足を潜らせる。

「なんつーか、打ち上げられた魚っつうか、生まれたての馬っちゅうのか」

ぷるぷると全身を震わせるサンジを見て、フランキーが至極尤もな感想を述べる。

「ロビンが次、左手、赤ね」

「はい」

先に咲かせた足の甲から、にゅうと腕が伸び、あっさりと赤の円に触れる。

「サンジ君次、右足黄色」

「む・・・ぎ」

「ロビン、右手青」

「はい」

「サンジ君、左手緑」

「ぐ・・・え!」

「ロビン、右足赤」

「はい」

「サンジ君、左足黄色!」

「が・・・・はっ!!」


サンジの奮闘に盛んに声援を送っていたギャラリーであったが、ことここに来て、サンジの鬼気迫る表情と苦悶の呻き声に、流石に皆徐々にその表情を変えていった。


「な・・・なぁ、サンジ・・・・そろそろギブアップした方がいいんじゃねェのか?」

探るように切り出したウソップを、サンジは苦しい息の中で睨みつけた。

「男が・・・・一旦挑んだ勝負から・・・・・逃げるわけにいかねェだろが・・・・っく!」

明らかに敗色濃厚な戦いの中で不敵に笑ってみせるサンジに、チョッパーは、おぉと尊敬の眼差しを向けた。

「サンジ君・・・・・」

ナミもまた心打たれるものがあったのか、優しくその名を呼ぶ。サンジが呻くように口を開いたのはその直後だった。

「ま・・・まだ・・・・全然・・・・ロビンちゃんと・・・・・スキンシップ・・・まだ」

「・・・・・・は?」

点と化した幾つもの目が見つめる中、サンジは熱に浮かされたように呟く。

「く・・・・・っ・・・・・くんずほぐれつ・・・・・!!」


言い終わったその瞬間、限界は訪れた。





ベギバギボギ!!!




「グギャア!!!」




何がどこに絡まっているのか分からない状態で転がるサンジに視線を落とし、ロビンは楽しそうに目を細めて首を傾げた。

「私の勝ち、ね?」

サンジの塊からガクリと力が抜ける。

「医者ーーーっ!!?」

色を失ったチョッパーがルーレットを放り出す。

「俺だーーーー!!!」



「アホ」

ゴロゴロと転がされて退場する主役を見送り、すっかり空になったグラスをテーブルに置くと、ゾロはそう締めくくった。



めでたく誕生日を迎えた愛すべきコックへ。

上下一揃いのギプスセットが今年のプレゼント。

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