*titled:ともサマ
「泣かないでよ」
そう言われてようやく涙を流していたことに気づいた。
濡れたままに目を上げれば、ナミさんが少し困ったようなそして優しい顔で俺の頭を抱き寄せた。
その手の優しさにまた泣けた。
気がつけば連れて来ていたトナカイの、昔の話を聞いた。
その過去を憐れむことはアイツの人生に対する侮辱だとも思うし、慰めることはアイツの思い出に土足で踏み込むことと同じように思える。
俺には何をどうする権利もない。
それでも悲しいと思う気持ちは止められない。
俺には、あのクソジジイがくたばるところを今もって想像できない。
目の前で死なせるくらいなら代わりに俺がくたばっちまった方がどれ位マシか。実際そうしようとしてルフィにどやされた。
けれども俺は他に術を持たない。
それは俺の心弱さの所為かも知れないが。
だから俺はナミさんを尊敬し愛する。
なくしてはならないものを失って尚生きるその強さを。
そうしてあのトナカイも。
ずるずると落ちる洟をすすり、ぼたぼたと手の甲に落ちる涙を目で追う。
「俺、あいつに優しくしてやりたい。なれるんなら親父になりてぇよ」
「そんなの無理よ」
ピンとデコをはねられ、俺はぐしゃぐしゃの顔をあげる。
「サンジ君ならお母さんよ、絶対」
真剣な顔をして言うので思わず吹き出した。
落ちる涙はほんの少し温かいものに変わった。
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