+裏書庫+


  視覚効果(下) Date: 2004/12/29 
滑らかな両の腿が惜しげもなく晒されていく。
裾にかけられた指は、躊躇いもなくするすると持ち上げられ、やがて華奢な腰が見えてくる。
ビビが身に着けていたのは、飾り気のない生成りのワンピース。
優しい風合の部屋着は放り投げられ、空気をはらんでゆっくりと床に落ちた。

目を逸らすことも身動きすることもできないでいるコーザを見下ろし、ビビは笑う。
まだあどけなさを残したままの顔つきと、その中にあって熱を湛える瞳。
その落差が嫌がおうにも劣情を煽る。
ビビは片手を自分の背に回す。

微かな音で下着が弾けた。
留め金を失くした下着の紐は、音もなく肩から外れて落ちる。
ビビはそれを止める素振りすら見せなかった。
抜け殻となった下着はコーザの腹の上に残され、ビビはゆっくりとその身を傾けた。
柔らかな二つの果実が、コーザの視線の先で誘うように揺れる。
「・・・ビ、ちょっと待――」
慌てて身を起こそうとしたコーザの口元に、ビビはそっと人差し指を当てる。
子供同士の秘め事のように。
けれど、浮べる笑みは子供の見せる表情ではない。
人差し指一本で男の動きを封じると、ビビはもう一方の手を頭上に伸ばす。
片手で造作もなく、その長い髪を解き放つ。
空色の髪が白い身体を彩る。
その髪の隙間から覗く胸元は、全てが晒されていた先程よりもかえっていやらしく見えた。
あるかなしかの感触で柔らかな髪がコーザの頬を擽る。
口元に当てた手を除けると、コーザに一言も許すことなくビビはその唇を奪っていた。

触れた途端に口づけは深くなる。
するりと唇の隙間に潜り込んだビビの舌は、驚きの連続に身体がついていかないコーザの舌をもどかしげに刺激する。
いつもと同じ少女とのいつもとは全く異なる口づけ。
情事の時でさえ、コーザの舌には躊躇いがちに応じていたビビが、今は自ら舌を挿し入れてくる。
いまだ受身のまま、コーザは強い酩酊感に襲われていた。
濃厚なワインの香がビビの舌先からコーザの舌へと刻みつけられていく。
熱い吐息も同じくワインの香だ。
けれど、それ以上に強くそして深くコーザを酔わせているのは、目の前の少女だった。
嬲るような動きを見せながら、ビビの瞳は至近距離で笑みの形に細まる。
やがて唇を離すと、ビビはゆっくりと自らの唇の端を舐めてその舌をしまった。
これまで見たこともないエロティックな仕草に、ただコーザは見蕩れた。
忍びやかな笑い声がコーザの身体の上を滑り降りていく。
口元から、首筋に。
そして、ビビの手がコーザの服にかかる。
危うい動きで、それでも何とかボタンを外していく。
はだけた胸元にビビの吐息があたった。そう感じたすぐ後、ぬるりと熱い感触が胸を這った。
胸の上で水色の頭が僅かに動く。
舌先はコーザの胸にある僅かな突起を掠めるように動く。
ムズムズとこそばゆい感覚は慣れたものではない。
コーザは起こしかけた身体を再び倒しかけた。
逃れたいという思いと、それとは全く逆の思い。
酒の香と少女の色香でもって、引きずり出されていく欲望にコーザは翻弄され続けている。
コーザの胸に舌を乗せたビビは、コーザの腰に跨ったまま、じり、と身体を後ろにずらす。
僅かばかり身を引くと、ビビの尻に硬くなったコーザの部分があたる。
そのことに気づくと、ビビは更にその身を引く。
コーザの足の合間に身体を潜り込ませると、ビビは躊躇うことなくその手を腰に伸ばした。
ガチャガチャと金具が慌しい音をたてる。
きつく押し込められていたその部分が徐々に解放されていく。
これ以上のことをされたら理性を保てる自信は皆無だ。
止めなければ、と思い、だが、肉の欲望は自らに課した枷を外していく。これから起こるであろうことを思い、コーザはビビの動きを止めることができなかった。

剥き出しにしたコーザ自身を、ビビはしげしげと見つめる。
自分に反応したことが嬉しかったのか、やがてビビは笑顔を見せる。
無造作な手つきで幹を掴み、先端部分を手のひらで撫ぜる。
敏感な割れ目を刺激され、コーザはくもぐった声をあげて身体を奮わせた。
弱点を見つけて嬉しそうに笑う顔は、悪戯好きの子供のようで。
そんな表情のまま、ビビは舌先を割れ目に押し当てる。
僅かな苦味を感じた。だがそんなことには頓着せず、ビビは何度も舌を往復させた。
舌を動かす度に、握った幹の部分がひくひくと反応を示す。
「あ、は。オモシロ」
「・・・遊ぶなよ」
笑うビビにコーザは憮然とした顔を向けた。
「・・・ん」
小さく頷くと、ビビはそのまま先端を口に含んだ。
身体を結ぶことはあれど、口淫をさせることはなかった。
させたい欲望を持ったことは当然あったが、それを口にしたことはなかった。
ビビの持つ透明なイメージに、その欲望は余りにも汚らわしい。コーザは漠然とではあるが、そんな風に思っていた。

それが――
ビビは可能な限り深く、コーザを飲み込む。
その小さな口には無理を感じるほど深く咥え、ビビの舌は不自由そうにたどたどしく動く。
それでも不意に敏感な場所に触れては、コーザを痺れさせた。
そんな実際の感覚にも勝るのが、何よりも目の前の光景だった。
花のように可憐にほころぶ唇。
その唇が、禍々しいとも言える男の器官を咥えている。
かきたてられるのは埒もない征服欲なのか。
熱が上がる。
頭がふらつく。
飲んでもいない酒に酔わされたような気がして、コーザはぶるりと大きく頭を振った。
それでも絶えることなく寄せられる快感は振り切ることなどできなかった。
「う、ぁっ・・・」
深い場所から引き抜かれると同時に、裏の部分を舐め上げられ、コーザは噛み締めた唇の合間から思わず声を漏らした。
先端を口に含んだまま、ビビはコーザを見上げる。
快楽を刻む者と刻まれる者。二つの視線が結ばれる。
濡れているのは酒の所為か、欲望の所為か。
ビビの瞳は益々潤みを増している。
雫が滴り落ちそうなほどに目を細め、ビビは微笑むと不意にその動きを早めた。
その目はひた、とコーザを見つめたまま。ビビの口の中から濡れた肉の棒が現れては消える。
乱れた髪がさざなみのように揺れる。
「・・・くっ・・・あ、ビ、ビビっ!」
差し迫った射精感に、コーザは堪らず腰を引く。
だが、ビビの唇がコーザを逃すことはなかった。
「ダメ、だ・・・・・も、離せっ、ビビっ!」
途切れ途切れの声は掠れ、悲鳴にも似た響きが切迫した状況を物語る。
その先端を絞るように、ビビが強く唇で挟み込んだその時だった。
「出、ちまう・・・っ!」
一度大きく震えた腰が、強張ったまま二度、三度と小刻みに震えた。

コーザが吐き出した液体をビビは口中で受け止めた。
激しく爆ぜた液体は、ビビの口中を何度となく撃ちつける。その衝撃をビビは全て受止めた。
大きく肩を上下させ、荒い息をつくと、コーザは慌てて半身を起こす。
座り込んだまま口元に手を当てているビビの手首を掴んだ。
「おい! そんなもん吐き出せ」
真直ぐにコーザを見つめたまま、ビビは小さく首を振る。
口元に当てたままの手を握り締め、ビビはその喉を鳴らした。
「お、前――」
絶句しているコーザの前でビビは笑い、だが、その後すぐにむせた。
気遣わしげな表情のコーザを前に、ビビは目元にうっすらと浮かんだ涙を拭う。
「・・・平気。それより――」そう言うと、ビビはふらり、と身を横たえる。
唯一身についていた下着を取り去ると、ビビは自らの指でその秘められた茂みを暴いた。
そうしてひっそりとビビは囁く。
「私にもして・・・ね」

柔らかな茂みの内部には、更に柔らかで、しっとりと湿った肉が潜んでいた。
白い指の先に広がる桃の色は穢れを知らぬ美しさで、だがそれだけに一層の淫心を見るものに抱かせる。
最早、誘われるままに、コーザはその肉に唇を寄せた。
ビビの立てた膝に手をかけ、大きく開かせる。
その合間に跪き、コーザは渇いた獣のように一心にそこを舐めていた。
襞の一つ一つを舌先で検分し、溢れ続ける滴りを啜る。
その度に身体を震わせ、ビビは甘い声で快感を伝える。
「あ・・・ぁ、コーザ・・・気持ちいい。・・・・気持ちいいの、コーザ」
何度となく続いた夢見心地の声は、コーザの舌が上部の突起を捉えた時に止まった。
赤みを増したその表面をそろりとコーザの舌が撫ぜる。
声にならない悲鳴と共にビビは背を反らした。
柔らかい皮で守られたままのそこを、コーザはそのまま口に含む。
頭上でビビが短く息を吸った。
じゅう、と吸い上げる音がする度、ビビは悲鳴のような息を吐く。
幾度となく吸い上げれば、すっかりと充血したそこはやがて姿を現した。
剥き出しにされた快楽の源をコーザは舌先で転がす。
「んっ・・・あぁあっ!!」
過ぎた快感に、大きく背を反らせ、落ちるようにビビはベッドに沈んだ。
「ビビ!?」
僅かの間、自失したビビの頬をコーザが撫でている。
先程と同じ、心配そうな表情で。
ビビは頬を包む大きな手に自分の手のひらを重ねる。

「大丈夫。壊れたりしないから」
優しい人。
優しい人。
壊れ物のように優しく抱いてくれる。
けれど――

無垢ではない身体はもうそれだけでは満足できなくなってしまった。
「ずっとコーザが欲しかったの。ずっと、ずっとよ」
コーザの目が見開かれる。
ビビの様子がずっとおかしかった訳をようやく知った。
「・・・・呆れた?」
コーザは無言で首を振る。
その首にビビは手を伸ばす。
「いやらしいこと、いっぱい教えて?」

顔の下すぐに広がるシーツに、ビビの髪がうねる。ビビの口から零れる嬌声は、あっという間にシーツに吸い取られていく。
四つん這いの獣の姿勢でビビは自らの中にコーザを受け入れていた。
後ろから深く突き入れられ、剥き出しのままの突起をまさぐられれば、最早、喘ぐことしかできない。
高まっていく互いの声と、熱だけがその時の全てだった。



酔いが完全に回ったのか、はたまた失神したのか、目を閉じたきりビビはぴくりともしなくなった。
規則正しい寝息を確認すると、コーザは自らが出したものを拭う。
服を着せようとして、全く意のままにならない身体に見切りをつけ、結局は裸のままベッドに横たえた。
人肌があれば寒くはなかろうと自分も裸のまま布団を被り、身を寄せた。
乱れた髪を片手で梳けば、現れた寝顔は子供の頃を思わせる。
だが、
目の前の少女は自分が考えているよりも遥かに女だった。
濡れた瞳。
男そのものを受け入れる唇。
見つめていればそれだけで心が騒ぐ。
コーザはおもむろに布団を捲り、半ば反応を示している自身に苦笑を向けた。

全く。顔を見ただけでこうだ。
これから先、我慢がきかなくなったらどうしてくれる。
満足げに微笑む恋人を横に、コーザは溜息を一つ零した。



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