+裏書庫+


  クロスファイア Date: 2005-08-06 
*"100題NO.29 炎"続き*




自分を抱くその男の後ろに炎が見えた。



昼尚、薄暗い倉庫の壁にナミは押し付けられていた。
立ったまま左の膝を抱えられ、その足を大きく開いている。
身に着けた踊り子の衣装はそのまま、幾重にも重なる薄い布の奥で、向かい合う男のものを飲み込んでいた。
突き上げる度に、ヒラヒラとその裾が舞った。

男もまた、着衣のままナミを攻め続けている。
尤も、初対面のときから男は帽子にハーフパンツという簡単ないでたちだったが。
黒のパンツの前を開け、足元には女の髪と同じ色の帽子が転がっていた。
無造作に垂らされたベルトの金具が男の腿にぶつかり、ガチャガチャと鳴り続けている。

「あっ・・・・・あ! イっ、ちゃ・・・っ!?」
切れ切れにそう呟いて、ナミは最後の抵抗を示すように激しく首を振った。
何度目かに髪留めが弾け、床の上で硬い音をたてた。汗ばんだ首筋に柔らかな髪が張りつくその様は、この上なく男心を擽った。
右手でナミの膝を高く抱え、エースは左手を倉庫の壁についた。
いつ果てるか知れず、硬く割れた腹筋が押し当てられる。突き上げられた拍子にナミはバランスを崩し、エースの肩に両手をついた。
大きく張り詰めた筋肉を纏う身体。
少年故の繊細さを其処此処に残している弟とは全く異なる、それは完成された男の身体だった。

「くっ、ふっ・・・・んんんんんっ!!」
その瞬間、ナミはエースの胸元に額をつけ、きつく唇を噛み締めた。
そうしなければ、どれ程大きな声を上げてしまうか分からなかったからだ。
声にならない悲鳴と共に、エースを飲み込んだ入口もギチギチと痙攣する。その震えは柔らかな腿を抜け、膝を抱えるエースの手にも伝わった。

「う、お!?」
不規則な動きで、けれどきつく締め付けてくるナミに、エースは慌てたような声をあげた。
この一瞬に凝縮された快楽を、エースは逃さなかった。
ナミがまだ絶頂の余韻にたゆたっているこの時に、強く強く腰を突き上げてくる。
ナミの漏らす声にかき消され気味だったエースの息遣いが徐々に大きくなっていく。
壁についた指先が、もがくように動いた。

「やっべぇ!!」
切羽詰った声の後、二度腰を突きいれてからエースはナミの身体を離れた。
愛液に塗れた自身の先に片手をあてがい、うう、と低く唸る。
何かを脱ぎ捨てるように全身を震わせ、エースはその手の中に精を放った。
それから壁の、先程まで手をついていた箇所を見て苦笑する。
「こっちもやべぇな」
ブスブスと燻っている壁には、エースの指の跡が黒く残されていた。
火を発する身体になってからは特に、感情をコントロールするようにしてきた。我を忘れるたびに火をつけて回っていては女一人抱けない。
けれど、今日は随分と入れ込んでしまった様だ。
弟の女だからかな、そんなことを考えながらエースは壁に手をあて、煙を抑えた。

「燃やさないでよね。大事な船なんだから」
今の今まで快感に震えていた女と同一人物とは思えない勝気な瞳で睨まれ、エースは可笑しそうにくくく、と喉を鳴らした。
「悪ィ悪ィ」
言葉とは裏腹な、悪びれない口調で笑いながら、エースは右手を見つめた。
次の瞬間、右手が炎に包まれる。匂いすらも残さない温度でエースは自らの精を焼き消した。
「証拠隠滅」
そう言ってエースはニヤリと頬を歪めてナミを見た。
「よかったのか? 俺とヤっちまって。ルフィと寝てるんだろう? アンタ」
「口説いてきたのはそっちじゃない」
落ちた髪留めを拾い、ナミは髪を束ねる。
「兄貴としちゃァ興味があったからな。弟の女ってやつに」
俯き加減で髪を結い上げると、ナミは顔を上げる。その顔は楽しそうに笑っていた。
「そのルフィが言ったのよ。兄貴と寝てこいって」



「アンタの兄貴に口説かれたわよ」
くすくすと笑いながらナミはルフィの背に声をかけた。
くくく、と笑って肩を揺らしたルフィがゆっくりと振り返る。その顔は笑ってはいなかった。
「行ってこいよ」
真意を掴みかねて、ただ真直ぐルフィを見つめるナミに、ルフィは言葉を続けた。
「自慢してェんだ。お前のこと」
そう言ってルフィは子供のように笑うので、ナミもまた「仕方ないわね」と笑ってその場を離れた。



その経緯を聞くと、エースは苦笑を浮かべてくしゃりと頭を掻いた。
「全く、我が弟ながらその心の広さに涙が出るな」
それで? とナミはエースを見上げる。
「弟の女の感想は?」
「自慢するだけあらァな」
エースはナミを頭から足の先まで視線で辿った。
「いい女だよ、アンタ。うっかり中で出しちまうとこだった」
「あと、船を焼いちゃいそうにも、ね?」
ナミの言葉に、全くだ、とエースは腹を抱えて笑う。それからナミの髪に手を伸ばすと、何気ない仕草で髪留めを外した。
結い上げたばかりの髪がばさりと散った。
「弟の寛大さに甘えて―――」
ナミの頤に指をあて、くいと上向ける。それと同時に手に持った髪留めを放り投げた。
「もう一回くらいヤらせてもらっとくかな」
遠慮のない物言いと、屈託のない笑顔は嫌になるほどルフィに似ている。
「兄弟揃って似たようなこと言うんだから」
ナミは笑顔で溜息をつき、熱を帯びた手にもう一度身を任せた。


「どうだった?」
戻ってきたナミに、興味深げな表情でルフィは尋ねた。
「よかったわよ」
「だろ?」
何故か嬉しそうに何度も頷くルフィを見て、ナミはもしかして自慢したかったのは兄貴の方なのかしら、とそんなことを思った。
「けど、私はアンタの方がずっと好きよ」
「知ってるさ」
すいと目を細めて、ルフィは薄く笑った。


船を降りる間際、誰にも気づかれぬようにエースはナミを招くと、そっと耳打ちをした。
「ルフィの野郎がウチの大将にヤられちまったら俺んとこに来いよ」
冗談めかした軽い口調で、だが挑発的な瞳を向けるエースに、「おとといおいで」とナミは舌を出して、笑いながらひらひらと手を振った。




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