■ カリファさんみたいな秘書服
<サンナミ / パラレル>
巨大なオフィスビルのワンフロア。 スーツ姿の人間が忙しそうに行き交う昼時、エレベーターの無機質な銀色の扉が開くや否や、調子のよい声があたりに響き渡った。
「おはよーう! ビービちゃーーんv」
黒縁メガネの優男が手を振りながらにこにこと近づいてくる。およそまともな社会人とは思えない態度も、もう毎度のことだ。
「おはようございます。けどもう遅刻ですよ。サンジさん」
受付のカウンターの中から、ビビは礼儀正しくにこやかに挨拶を返す。
「いやー、ちょっと電車に乗り間違っちゃって・・・・・・そんなことより、ビビちゃんてば今日も可愛いねー」
周りの社員達の視線も憚らずにサンジはカウンターに片肘をつき、ずいと身を乗り出す。
「どう? これから一緒にランチでも。美味しいもん奢ったげるよ?」
「えぇっと、お弁当持って来てますから。今日」
毎日のように繰り返されるやりとりにもめげず、サンジは「じゃあまた今度」とにこやかな笑みを返す。その直後、眼鏡の奥の瞳が近づいてくる女性の姿を捉え、サンジはやおら身を起こすと、今度はそちらに愛想を振りまき始める。
「やっほー、コニスちゃーんv」
じゃあまたね、と笑顔で言い残し、会釈をしながら歩いてくるコニスの元に歩を向けたその時、背後から不意に伸びてきた手がサンジの耳たぶをぎゅうと摘んだ。
「イっ、イデデデデッ!!」
耳を引っ張る手は情け容赦なく、サンジは思い切り顔を顰めながらぎこちなく後ろを向いた。
右手で耳を摘んだまま、左手を腰にあて、サンジに鋭い視線を向けているのはこの社で唯一の社長付の秘書であるナミだった。
「遅いっ!!」
「スミマセンっ!!」
ナミの一喝に、サンジは思わず姿勢を正す
それから、とナミはヒールの底を鳴らしてサンジに近づく。
「会社でナンパは止しなさいって前から言ってるでしょ!!」
「ハ・・・ハイ・・・」
身を縮込ませながらも、サンジは目の前に凛と立つナミをじっと見つめる。
パリッと糊のきいた白いシャツに、やや丈の短い黒のタイトスカート。そこから伸びるすらりとした足にアイボリーのピンヒール。
オレンジの髪を後ろで一つに纏め、薄付きの化粧の中、鮮やかな朱に染まった唇が何とも魅力的だ。 細い銀のフレームの奥の瞳は理知的で、これぞ秘書のお手本といった素晴らしいスタイルである。
恐縮した風で小言を聞いていたサンジの頬が、やがて、にへら、と崩れる。
「・・・・何?」
冷たいと言っても言い過ぎではない視線に怯む様子も見せず、サンジはうっとりとした表情でその口を開いた。
「怒ってるナミさんも素敵だなぁって。よかったら仕事上がりにディナーでもご一緒に」
「・・・・・・・・・・・・」
「ナミさん?」
俯いて黙り込んだナミの顔を、サンジは怪訝そうな様子で覗き込む。
「言った傍からナンパするんじゃないのっっっ!!」
次の瞬間、怒りに震える拳がパカリとサンジの頭を叩いた。ぎゃっとサンジは悲鳴をあげ、痛む頭を抱えた。
「もう、社長直々にお説教して貰います! ちょっと来なさい!!」
「スミマーーーン・・・・・いや、逃げませんから、お願い耳引っ張らないで、テテテテッ!」
有無を言わさず連行されていくサンジを見送った後、ようやく静けさを取り戻ししたフロアで、ビビとコニスは顔を見合わせた。
「何ていうか・・・相変わらずですねぇ。サンジさん」
「けど、変わってるって言うか、懲りないって言うか。妙なところで度胸があったりして」
そうして二人は互いに肩を竦めながらクスリと笑った。
「申し訳ございませんー」
耳を思い切り引っ張られながら前かがみの格好で、サンジはよたよたと木製の重厚な扉の中へ入っていく。
重々しい音で扉が閉まると、ナミはサンジの耳から手を離し、にっこりと微笑んだ。
「はい。お疲れ様」
それまでの冷淡な表情は鳴りを潜め、ナミの顔には今は気安げな笑みが浮かんでいる。
「いやもう、熱入りすぎですってナミさん」
耳を押さえてしゃがみ込み、サンジは本気で痛そうに呻く。
「アナタもダメ社員振りがすっかり板について」
クスクスと笑みを零すナミに、サンジはそれまで見せていた笑みとは、また趣が異なる笑みを返した。
「まぁ、グータラしてんのは嫌いじゃないですからね、俺」
「折角だけど」
そう言ってナミは意味ありげな眼差しでサンジを見つめると、そっと両手を伸ばして、黒縁のメガネを外した。
「これからは仕事のお話」
ナミはそのほっそりとした指でメガネの蔓を畳むと、それをサンジのスーツの胸ポケットに入れる。その間、軽く目を閉じていたサンジが、それを合図とするようにゆっくりとその瞼を開けた。
人のよさそうな眼差しは、まるで嘘のように掻き消え、今は精悍な瞳が真直ぐにナミを見据えている。
「そうでもなきゃ、俺が呼ばれる訳もないでしょ? この部屋に」
撫ぜるようにしてナミの頤に指をかけ、サンジは軽く身を屈め、じっとナミの瞳を覗き込む。
笑いながら逃げる唇を、サンジの唇が追う。
「そういうこと」
その時、まるで見計らったかのように三人目の声が二人の間に割って入った。
その声を耳にしたサンジは短く舌打ちし、身を起こす。
心底残念そうなその様子に、可笑しそうに笑みを零すナミを見て肩を竦めると、サンジは応接用のソファに遠慮なく腰を下ろした。
革張りの背もたれの上に左腕を伸ばし、右手で内ポケットを探る。取り出した煙草に火をつけ、大きく煙を吐き出してから、ちらりと苦笑を浮かべて、サンジは窓際にある大きな、だが空のデスクに目をやった。
「いいタイミングで邪魔してくれるじゃねェかよ」
忌々しげなサンジの声に、快活な笑い声が重なる。それはデスクに置かれたディスプレイから。
それまで真暗であったモニタには、今は麦わらを被った少年の姿が映っている。それが、この社を含む巨大複合企業のトップに座する者であると知る者は極限られている。
「社内で女引っかけんなって言われたばっかだろ? お前」
「見てやがったか」
ししし、と笑う少年の背後には壁一面を占拠している無数のモニタがある。ルフィという名のその少年は、その情報の海の全てを瞬時に把握し、処理することができると言われていた。
「だって面白ェんだもんよ。お前見てると」
悪趣味なガキだ、とサンジは毒づき、曇り一つないクリスタルの灰皿に煙草を押しつけた。
「で、仕事って?」
「トイショップ・ワポールって知ってっか?」
トイショップ・ワポール、サンジはその名を頭の中で幾度か繰り返し、ああ、と思い至る。
河川敷の露天商からのし上がったというワポル財閥。その急成長の先鋒となったのが件の玩具屋だったか。
「今度買おうと思ってよ、そこ」
まるで玩具の一つでも選んだような気軽さでルフィは言う。そんなことにもとうに慣れっこになっているサンジは、眉をピクリと上げただけで「で?」と先を促す。
「今、話しつけてるトコなんだけどな。この財閥の頭、ワポルって奴がどうにもキナ臭ェ」
ルフィが一つ息をついたタイミングで、ナミがサンジに資料を手渡す。
その一番上にワポルの近影が載っている。その顔を一目見てサンジは苦笑を浮かべた。
「キナ臭ェもなにも、どーみても、悪人面じゃねェか。コイツ」
「お前が言うなよ」
笑うルフィをじろりと睨んで、サンジは余計なお世話だ、と呟いた。
「どうもロクでもないことを企んでそうでな。その毒がこのトイショップにまで及んでる、らしい」
ルフィは、す、とその顔から笑みを消す。
「そこにゃ、かなり大規模なゲーム用のネットワークサーバーがある。その中にウイルスをばら撒くつもりらしい。奴らにとっては手近な実験場って訳だ。今となっては玩具屋の一つ潰したって構わねェって腹だろうな。けど俺としちゃ、そこは潰れて欲しくねェんだよ」
「商売上の理由でか?」
いーや、とルフィは再びその顔に笑みを乗せた。
「あそこはいい帆船模型作んだよ」
本気か冗談か。相変わらず考えの読めんガキだ。サンジはディスプレイに向けてふうと煙を吐いた。
「ま、問題はウィルスだ。今んとこ、それがどんな効果を持つものなのかは分かってない」
「じゃ、今回の仕事はそれを?」
「それは今の俺には不要のものだ。そのウィルスに関する全ての消去・破壊をお前に任せる。ま、折角だからぶっ壊す前にデータだけは貰ってきてもらうかな」
「必要ねェんじゃねェの?」
「今は、な」
そう言ってルフィはいっそ無邪気と言うべき笑顔を見せる。
「へいへい。おっかねェこって・・・・けどよ」
背もたれから身を起こし、サンジはガリガリと頭を掻く。
「俺ァ、ぶっ壊すのは得意だけどよ、コンピューター関係には弱いぜ?」
「んなのはよく知ってるさ。だから今回はナミをつける」
「ナミさん?」
視線を向ければ、ナミは仕方ないといった顔で小さく笑っている。
「久しぶりに楽しい仕事になりそうだな」
サンジはその顔を明るくし、立ち上がるとナミの傍に歩み寄った。
「じゃあ、終わったら夜景の見えるバーで祝杯をご一緒に」
「サンジ君?」
ジロリと睨まれ、サンジは肩を竦める。それを見てモニタの中の少年はまた楽しそうに笑った。
「こりゃまた念には念の入った警備体制で」
モニタから少年の姿が消えた後、ナミから新たに渡された建物の見取り図、警備の人員配置図をぺらりと捲り、サンジは半ば呆れたような声をあげた。
一見していかにもといった厳重さ。
「午前0時に警備の入れ替えがあるわ。その後を狙いましょう」
「了解・・・・そうと決まれば―――」
サンジは資料を持ったまま、大きく伸びをした。
「資料庫の鍵、貸してくれる? ナミさん」
「いいけど、何で?」
「時間も大分あるし、寝てますわ。後で資料庫のドアに張り紙でもしといて『罰として資料庫の整理を命ずる』って」
メガネを掛け直しながら扉の手前でサンジは振り返り、ニヤと笑った。
スチール製のドアに貼られた紙を剥がし、ナミはノブを引いた。
灯りを落とした廊下よりも暗い室内を、次の瞬間、蛍光灯の白い光が満たした。
「うううう〜〜」
スチールテーブルの上に寝転がっていたサンジは、低く唸りながらメガネの上を腕で覆った。
「時間よ」
涼やかな声に対して、サンジは口の中で何やらもごもごと呟く。寝転がったままメガネを外すと、眩しそうに片目を瞬かせた。
「あー、ナミさん。お早う」
間延びした声を発するその顔を、ナミは険しい表情で覗き込む。
「お早うじゃないわよ。早く起きて!」
サンジは薄く笑うと、開いている右の目で気だるげにナミを見上げる。
「お早うのキスをくれたら、すぐ起きる」
「お早うの拳骨なら今すぐあげられるけど?」
「・・・・・・・・ごめんなさい」
額の上に突きつけられた拳を避けながら、サンジは速やかに起き上がった。
ターゲットであるビルの裏門の様子を窺える暗がりに、車が一台停められている。
運転席のリクライニングをきかせ、サンジは車窓から警備員の交代を見つめている。ふとその視線を横にずらせば、ガラス窓には助手席のナミの姿が映っている。
「まさかその格好のままで参戦とは、ね」
外を見つめたまま笑い含みに言うサンジの背をナミは軽く睨む。
「私は今までちゃんと働いてたの。アナタと違って、ね」
それに、とガラス窓に映る女は涼やかに笑った。
「これが私の戦闘服だもの」
「流石の心意気」
口笛を高く鳴らして、サンジはシート横のレバーを引く。ガタンと音をたて、シートが戻る。
「さてと、そろそろ参りますか。レディ?」
しなやかな黒の皮手袋をサンジはその手にはめる。手首にあたる革を噛んで軽く引き、指先にまでしっかりと革を馴染ませると、サンジは車のロックを外した。
「まずは、これ」
歩きながらバッグの留金を外すと、ナミは中から手のひらほどの基盤を取り出す。
「モニタールームの場所は分かってるわね?」
目で頷いたサンジを見て、ナミは先を続ける。
「これを、すり替えればそこから後は偽の映像を流せるわ。何事もない、いつもの警備風景のね」
「てことは、そっから先は心置きなく暴れ放題?」
嬉しそうなサンジを見上げ、ナミは苦笑する。
「ま、程ほどにね」
交代してから十五分。夜はまだ始まったばかりだ。警備員は内心うんざりと溜息をついた。
二人一組で夜通し門を守る。
どうせ今夜も何事もない。ただ立っているだけいいと考えれば、楽な仕事だ。しかし、何だって玩具会社にこんな警備が必要かね。
まぁいい、と何気なく見上げた街路樹がほんの僅か、揺れたような気がした。その直後、門の内側で砂を踏む音が聞こえた。
「?」
振り返り、門扉に手をかけようとしたその時、裏門に面した歩道の先で、キャ、と短い女の悲鳴があがった。
門扉に触れた腕を、もう一人の警備員が引いた。そうして声の上がった方を見るように無言で促す。
視線を動かせば、躓きでもしたのか、歩道に横座りしている女の姿が見えた。
身体にぴたりと吸い付いているタイトスカートが際どいラインまで持ち上がり、形のよい脚が街灯の光の下に晒されている。
傍に寄らずとも、そのスタイルのよさが際立っていることが分かる。男達は顔を見合わせ、音を出さずに口笛を奏でた。
「お仕事中ごめんなさい」
女は警備員達に向けて微笑みを向ける。
「ヒールが挟まってしまったみたいなの。手伝ってくださる?」
「ナミさん、お待たせー・・・・って、あれ?」
出しなに蹴倒してやろうと思ってた警備員の姿がない。拍子抜けの顔で辺りを見回したサンジの目に、ナミに群がるようにして立つ男達の姿が映った。
何の前触れもなく内側から開いた扉と、そこから現れた男の姿に警備員達は、ぎょっと目を剥いた。
「おいコラ、てめェら!」
唐突に現れたその男は、凶悪な面相を作ると一気にその距離をつめた。
「俺の女にナニしてやがる!!」
目の前で高々と上がった踵。警備員達が覚えているのはそこまでだった。
「ナミさん、平気?」
「遅い!」
憤然としたナミは白の手袋をはめた手で、倒れた警備員のポケットを探る。取り出した携帯電話からあっと言う間に自分のデータを削除した。
「もう! 本当にしつっこいたら!!」
警備員達の体の上に携帯を放り投げると、ナミはサンジに人差し指をつきつけた。
「一つ、忍び込む時は極力音を立てないこと、そして!」
ずい、と身を乗り出し、ナミはサンジを睨む。
「もう一つ。勝手に私をアナタの女なんて呼ばないように!!」
そう言い残してナミは、すたすたと門へ向かって歩き出す。
「まーた、照れちゃって。ナミさんてば」
全く堪えていないその声を背中越しに聞いて、ナミは小さく溜息を零した。
「よっ、と・・・せっ!!」
切れのよい掛け声が途切れると、それまで立っていた警備員達は一斉に崩れ落ちた。
「これでゴール、と」
最上階にある一際立派な扉を蹴りつけ、サンジは無遠慮にその中へと入る。中に人の気配はない。
「オッケ! ナミさん!!」
サンジの呼ぶ声に、ナミは手にした懐中電灯のスイッチを入れながら部屋に足を踏み入れた。部屋の中を一通り照らし、ナミは首を傾げる。
「見込み違い? とてもウイルスだのを扱ってる部屋には見えないけど」
「どうかな?」
サンジは、身近な壁を爪先で二、三度蹴りつけ、それから大型のデスクがある場所まで移動し、その裏の壁を同じようにして蹴った。その顔にチラリと笑みが浮かぶ。
「さーて、何が出ますやら」
歌うように呟いてバックステップを一つ。僅かに引いた右足は次の瞬間、爆発的な勢いでもって目の前の壁を蹴り壊した。
もうもうたる煙がおさまると、そこには更なる空間が現れていた。
「見取り図、見た時から気にはなってたんだ。ここに不自然な空白があった」
何でもないことのようにそう言ってのけ、サンジは笑みを残し、新たに開いた闇の中へと姿を消す。呑まれたように思わず立ち尽くしたナミは、すぐさま我に返ると、慌ててその後を追った。
「お見事」
賞賛の言葉をかけ、ナミはサンジを追い越す。壁際には汎用コンピューターが並び、先程の部屋にあったものより更に大きなデスクのその上には、大型のディスプレイとキーボード類が接続されていた。
「ここからは私の仕事ね」
コンピューターを起動させると、ナミはデスクに向かった。立ったまま軽く身を屈め、キーボードを操る。手袋に包まれたナミの指先が流れるように動くたび、様々な色の様々な画面がめまぐるしく現れては消えていく。
「建物周りの警備ほど、この"中"は厳重ではないわね」
壁に背をもたれさせて、ナミの後姿を眺めていたサンジが口を開く。
「イケそう?」
「ちょっと待って・・・・もう少しでイケそう」
もうちょっと。あと少し、とナミは呟く。
「これで、と」
ナミがキーボードを叩くと、カチャリと音をたてディスクが排出された。
「イった?」
「ん・・・イけた・・・・!!?」
頷き、振り返ろうとしたその瞬間、いつの間にかすぐ後ろに控えていたサンジが、ナミの背を覆い隠した。
サンジがじわりと身を寄せる。背にかかる重みに耐えかね、ナミは机に両手をついた。
「サ・・・ンジ、君?」
サンジは黙ったまま、右の手をナミの太腿に這わせた。指の先にスカートの裾をかけ、ゆっくりと持ち上げていく。
「ちょっと、何っ!? こんなトコ、で」
「イクのイかないの話してたら―――」
そう言って、サンジは更にナミの背に体重を乗せる。ナミは立ったまま、完全に上半身をデスクの上につく格好となった。
「何か、欲情してきちまった」
背後から密着した状態でサンジは、ナミの耳元で囁く。ナミの腰を当てられていた手のひらが前方へと向かう。下着の上から柔らかな肉を押さえ、己の方へと引き寄せる。
「―――!!?」
欲情の印を一枚の布越しに感じ、ナミは息を飲んだ。
手触りのよい布の上をサンジの指が探るように動く。空いている左手はデスクの上へと伸びる。デスクとナミの身体の合間に差し入れられた左手が、ブラウスのボタンを器用に外していく。
半ばまで顕わになった胸の谷間は、ナミがもがく度、デスクの上で淫らにその形を変えていく。ブラウスの中に差し込まれた指は無遠慮にその先端を摘む。手のひらに感じる柔らかな重みの中で、その先端はすぐに反応を示し、硬く尖っていく。
「や・・・・ダ、メ・・・っ!?」
ビクリと背を震わせの呟きに、サンジは声を潜めて笑い、ナミの耳を擽る。
「ダメじゃないだろう? 全然」
ほら、とサンジは下肢を弄んでいた手を止め、下着をひき下ろす。それから熱く滾った自身の幹を握ると、じわりと濡れたとば口にあてがった。
さほど力を入れずして、サンジの先端は、まるで飲み込まれるように姿を消した。
「いつもより興奮してる? 敵の懐でこんなことされて」
囁きで嬲りながら、サンジはナミの腰を引き寄せ、ざらつく内壁を一息で抉った。
「あ、あぁぁっっっ!!」
堪えきれずにあげた高い声に、サンジは喉の奥で笑う。ブラウスの中で乳房を弄っていた指を取り出し、そっとナミの唇にあてた。
「あんまり騒ぐと、敵さん起きちまうかもよ?」
そう言いながらも、サンジはナミの最奥を突くことを止めない。
「あっ、う・・・くっ」
息すらも儘ならぬ中、ナミは僅かに唇を開き、サンジの指に歯を立てた。
快楽をこらえる為か、ナミは喉を震わせながらサンジの指を噛む。指に感じる痛みは、そのままナミの感じている快楽に他ならない。ナミのその行為にそそられる嗜虐心は如何ともがし難く、 腰を突き上げる度に感じる甘い痛みに、サンジはのめり込んでいった。
遠慮なく汎用コンピューターを蹴り倒して仕事を仕上げた後、データとナミと二つの戦利品を抱え、サンジは満足気に敵陣を後にする。
裏門を過ぎたあたりで、抱きかかえられていたナミが目を開けた。
「お目覚め? ナミさん?」
にこやかな笑みを落とすサンジを、ナミは睨み上げた。
「お目覚め、じゃないわよ! 何考えてんの!? 全く!!」
丁寧にナミを立たせると、サンジはデータの入ったディスクを取り出して渡す。
「仕事もバッチリ。更に気持ちいい、で一石二鳥だと思わない?」
まるで悪びれなた様子のないサンジにナミは頭を抱えた。どうしてこう、メガネをかけないこの男には振り回されてしまうんだろう。
「これから二回戦、どう?」
溜息をついて上げた視線の先に、停めておいたサンジの車があった。
「どうやら、私を口説いてる場合じゃなさそうよ」
くすくすと笑うナミをサンジは怪訝そうな顔で見つめる。
「何で? ナミさん口説く以上に大事なことなんて―――」
ナミの指差した方向を見て、サンジは、ウソ、と呟く。そこには今まさにレッカー移動されそうな愛車があった。
「うわ、ちょっと待って! お巡りさーん!!」
メガネを掛けながら、サンジは慌てて駆け出す。途中、未練がましくも振り返ったサンジに、ナミは満面の笑顔で手を振ると、くるりと踵を返した。
costume request k様
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