■ 浴衣 <ゾロナミ>



暑い街だった。湿度が高いものの、街中いたるところにある緑が目に鮮やかで、風が吹けば耳に涼しげな音を届けてくれる。そんな街の、 決して大きくはない通りを、晴れやかな顔をした人々が気もそぞろといった足取りで同じ方向へと向かっていく。

「どっからこんなに人が溢れてきやがったんだ?」
宿の窓から通りを見下ろし、驚き呆れた顔に若干のうんざりをのぞかせてゾロは一人ごちた。
「仕方ないわよ。今日がお祭りの最終日だって言うんだもん」
開け放した扉の外から楽しげなナミの声がする。
川向こうで大掛かりな花火をあげるとのことで、下の行列はそれを目当ての見物客だった。
「支度できた?」
そう言って現れたナミは、白地に桜の花びらの模様が落ち着いた色合いで配された浴衣に身を包んでいる。
いつもとは違う、緩く結い上げた髪がしっとり匂い立つような色を加えている。
「こんなもんでどう?」
振り返った瞬間、思わず見惚れたゾロはナミからの問いかけでそのことを自覚し、慌てて視線を外した。
挙動不審のゾロを見てくすりと笑う。
「アンタのカッコは・・・どうなんだろ?」
藍色に白板締めの甚平は、確かに見た目涼やかではあるのだが。
「・・・・どうしても外せない訳ね。それは」
苦笑を浮かべるナミが見つめた先には、いつもの腹巻がのぞいていた。

「で、今から行く訳か? こん中に」
階下を指すゾロに、ナミは平然とそうよ、と告げた。
うんざりした顔を見せたゾロに、ナミは得意げな顔で小首を傾げた。
「心配しなくても平気よ。宿の人にちょっと"お願い"して穴場を教えてもらっちゃった」
そう言ってナミはとっておきの笑顔をゾロに向けた。
確かに、こんな顔で"お願い"されたら野郎ならたまったもんじゃねェだろうがな。
納得と同時に、誰とも知らぬ宿の人間に嫉妬にも似た気持ちを感じてしまう。それを暑さの所為にして、ゾロは目の前の窓を閉めた。


「へぇ、確かに穴場かも」
背の高い木々が連なる細い小道を抜けると突然に視界が開けた。薄緑の芝が生い茂るなだらかな丘は、途中で切立った崖につながっている。その下に今日の打ち上げ場である河原があった。
大気は熱を孕んだまま、その色を夜へと変えようとしている。その頃になると、いくら穴場とはいえ、ゾロとナミの周囲にポツリポツリと見物客が現れ始めた。手馴れた様子で敷物を用意し、腰を落ち着けている。
「立ってたら邪魔、かな?」
「かもな」
そう応じると、ゾロは頓着もせずにその場に腰を下ろす。その途端にナミの抑えた、だが厳しい声が飛んだ。
「ちょっと!! 汚したら買い取りなんだからね、その衣装」
「へいへい」
聞き流しているに違いないゾロ向けて唇を尖らせ、ナミは隣にしゃがみ込んだ。
やがてすっかりと暗くなった空に、鋭くそして高く上っていく音が聞こえ、次の瞬間、視界に金の大輪の花が開いた。
間髪入れず、次々と打ち上げられていく花火に、空はあっと言う間に散っていく金の花弁で一杯になる。
「凄い・・・綺麗」
独り言のように呟くナミの横顔に、一瞬の光があたる。先ほどまでの不機嫌面はどこへやら、陶然と空を見上げるその表情にゾロの心はざわめいた。
「・・・っ!!?」
「どうした?」
小さな悲鳴をあげ、顔を顰めたナミが青い光に照らし出された。ナミは小さく笑って見せる。
「ちょっと、こういうの履き慣れないもんだから。足がね」
そう言ってナミは、下駄の鼻緒の部分を擦った。窮屈な格好でしゃがみ続けていたので、鼻緒が肌に食い込んでしまったのだろう。

どうせ、座れっても聞きやしねェだろうしな。
ゾロはちらりと辺りを伺う。
一瞬の光に浮かぶ人影の数々。それは二人にさほど近い訳ではなく、花火が消えればすぐに辺りは闇に包まれ、何も見えなくなる。
やれやれと肩を竦め、ゾロはその場に胡坐をかくと、やおらナミに向け片手を伸ばした。ゾロはナミを抱えた手を軽々と持ち上げる。
「え?」
何が起こったか考える余裕もなく、身体がふわりと浮き、気づいた時にはナミはゾロの胡坐の上に腰を下ろしていた。
「ありがと」
身を捻り、ナミはゾロを見上げる。それから悪戯な瞳をゾロに向けた
「座り心地はイマイチだけど」
「・・・・叩き落とすぞ」
憮然とした顔で低く唸ったゾロを見て、ナミは可笑しそうにくすくすと笑い声を零した。

打ち上げの音が身体を震わせる。
夜空を赤く、青く染めては消える数多の光。
鮮やかな空の花から視線を落とせば、そこには地に咲く花がある。
ほんの少し割れた裾の間から白い足がのぞく。結い上げた髪を撫ぜる手と、ほっそりとした首にかかる後れ毛が何とも艶かしい。
ほんの僅かな仕草に戸惑う。揺れるたびにゾロの心を乱す花。

劣情は、予告なく溢れた。
ゾロは左腕でナミの腰を引き寄せると、右手を浴衣の合わせ目に潜り込ませた。
びくりと跳ねるナミの身体を押さえ、ゾロは無遠慮なまでの大胆さで奥へ奥へと指を進ませる。
「ちょっ!? ゾロっ!?」
囁く声で驚き、抗議するナミの耳元に唇を寄せる。
「いいから、黙ってろ」
それでも承服しかねるナミが、ゾロの侵入を阻もうと両脚に力を込めているのが分かった。
じわり、じわり、と指は進む。
強張ったままの内腿を撫ぜていく指先が、柔らかなものを感じた。
ああ、とゾロは内心で頷く。下着をつけていないのだ。この下には。理由は分からないが、自分にとっては好都合なことこの上ない。
恥毛を潜り、指先をぴたりと閉ざされた柔肉にあてがう。指の腹でやわやわと揉んでいけば、徐々に肉の中に埋もれていく指先に、ぽつんとした突起を感じた。
また一つ花火があがる。ナミの身体に触れている指にも破裂音の振動が伝わる。周囲の感嘆の声に紛れ込ませるようにして、ナミが悩ましげな吐息を一つ零したのが分かった。
ゾロは突起に指をあてたまま動かない。それでも、花火が打ち上げられるたび、ナミの敏感な場所には繊細な振動を与えられ、焦らすような快感に悶えた。
空に花が開くたびに、ナミの両脚が徐々に弛緩していく。そのことに気づいたゾロは、ナミの身体の更に奥に指を伸ばしていった。
じわりと濡れたとば口に指が入ると、ナミは小さく息を飲んだ。
浅く入れた指先にナミの体液をからめ、ゾロはその指を再び突起にあてがう。ぬめるその指先で、突起の表面を執拗に撫ぜた。
まるで舌で舐められているような快感に、ナミは堪らず、歯を食いしばり、自分を抱えるゾロの腕を強く握った。ゾロは突起を嬲りながら、残りの指で熱い蜜を吐く入口を塞ぐ。
快楽を生む二箇所を同時に責められ、ナミは無意識のうちにゾロの腕に爪を立てていた。
鋭いその痛みすらゾロを煽る。
「熱ィな」
そう呟くと、ゾロは甚平の上着を脱ぎ、ナミの下肢を覆うようにして広げた。
その下でゾロが気ぜわしげに浴衣の裾をたくし上げているのに気づき、それまで快感に酔っていたナミは目を見開いた。
「冗談でしょ?・・・・こんなトコで」
「誰も見やしねェよ」
「けど・・・」
ナミの声には絶対的な拒否の響きはない。それを感じたゾロはナミの手をとり、熱くなった自身に触れさせた。
「なぁ、分かんだろ?」
密やかな響きは悪魔の誘惑。ナミはまるで操られるように、太い幹を手のひらで擦った。熱く、硬く脈打つそれを肌で感じれば、先ほどさんざん指で嬲られた場所が疼きだし、切ない痛みをナミにもたらした。
「このままちょいと腰、浮かしてよ」
おずおずとナミが腰を浮かせる。
「いい子だ」
まるで子供を褒めるような優しい声で、ゾロは囁く。次の瞬間、その口調は一転して生々しい男のものへと変わった。
「声、上げるんじゃねェぞ」
男を受け入れる準備が十分に出来ているそこに自身を浅く埋め、ナミの腰を引き寄せる。眩暈がするほど甘い圧力を感じながら、ゾロはその身をナミに繋げた。
瞬間、真黒な空に花火が散った。
「っ!!? あぁっ!」
引き結んだ唇から僅かに零れた嬌声を、花火の音が隠した。
それでも周囲を気にして俯いたナミの顎をゾロの手のひらが支え、空に向けた。
「折角だからちゃんと見てろよ」
余裕のあるその態度が小憎らしく、ナミが何かを言おうとした瞬間、繋がった部分の少し上をゾロはもう一方の手で弄った。
「―――――――――っ!!」
大きく広がった入口から溢れた蜜で指先を潤し、ゾロはすっかりと膨れて立ち上がった突起を擦り始めた。
目の前で色とりどりの光が踊る。
多くはないとは言え、人のいる場所でこんなことをしている自分がナミには信じられなかった。
はちきれんばかりに膨らんだ突起をいっそ乱暴なほどに擦られれば、自分の中がどろどろと溶け出していくのをナミは感じていた。
みっちりと塞がれている筈の入口から漏れる体液をゾロの指がすくうたびに、辺りに水音が聞こえやしないかとナミは緊張し、その緊張感が更なる快感を煽った。
ちかちかと溢れる光。もう目を開けているのか閉じているのかも分からない。
ただ、引き摺り上げられるようにもたらされる快感、それだけが現実だった。
「凄ぇ・・・締まってきやがる」
ゾロもまた囁きと共に苦しげに息を吐いた。ああ、と忌々しげな声をゾロは上げた。
「畜生。思い切り腰使いてェ」
その言葉にナミの中がぞくりと反応を示す。ナミもまた同じことを思っていたからだ。ゾロのあの太い傘で思い切り中を擦りつけて欲しい、と。
一度だけなら――
ナミはゆっくりと身を浮かせる。内側の壁を擦られつつ、ゾロが抜けていく快感にナミは背を粟立たせた。それから再びゆっくりとゾロの上に腰を下ろしていく。
元の位置に収まったナミを、ゾロの腕が更に強く引き寄せる。 「出す、ぞ」
切なげなゾロの声が耳元に届いた次の瞬間、最大の花火が目の前に広がる。散りゆく火花を見つめながら身体の最奥に熱い飛沫を感じ、ナミもまた積み上げた快楽を解放した。


「どうした? 腰抜けたか?」
全ての花火の打ち上げが終わり、見物客達は三々五々帰路についている。
人気の少なくなった頃、からかうようにそう言って、ゾロはナミを立たせようとする。
「あ・・・ダメっ!!」
まるで行為の最中のような、切羽詰った声の甘さにゾロは驚き、動きを止めた。そんなゾロの胸板にしがみつくようにしてナミは俯いて呟いた。
「ダメ・・・・出ちゃう」
それが自分の注いだ体液だと気づき、また恥らうナミの様子が余りにも色に溢れていたのもあいまって、ゾロは身の内に再びの劣情が芽生えたのを半ば呆れながらも自覚した。
立てないナミを横抱きにすると、ゾロはナミに顔を近づける。
「心配すんな。宿に着いたら全部掻き出してやる」
「底なしスケベ」
潤んだ目で睨みつけるナミに、ゾロは悠然と笑ってみせた。


costume request roki様


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