字書きさんに100のお題
賑々しく盛大な宴会と五つの「おめでとう」の言葉。そしてその後。
「で? 後はアンタだけなんだけど?」
女部屋のソファにどっかりと座って瓶を傾けていたゾロの、背もたれに回した腕にナミは頭を預けてそう言った。
あのな、とゾロは渋い顔をナミに向ける。
「そういうのは強制されて言うもんじゃねぇんだよ」
対するナミは涼しい顔で、そうね、と返した。
「強制されるまでもなく言う言葉よね」
ぐっ、と息を詰めただけでゾロは反論できず、不敵に笑うナミの圧勝。
ナミはゾロと向き合うように体勢を変えると、それまで頭を預けていた二の腕にちょこんと顎を乗せる。
至近距離で催促してくる瞳は、酒の所為か潤みがちで目元もほんのりと赤く、いつにも増してあだっぽい。
「仕様がねぇなぁ」
ゾロは溜息を一つついてから、ナミのシャツの後ろ首をまるで猫の子でも持ち上げるようにひょいと摘んだ。
「柄じゃねぇんだよ。代わりのモンで我慢しろ」
無遠慮にシャツの中に突っこんでくる腕に、その意図を察し、ナミは慌てて身を捩った。
「ちょっ! ちゃんと言葉にしなさいよ!! このケダモノっ!!!」
わたわたと暴れるナミをあっさりと押さえ込み、ゾロは可笑しそうに目を細めた。
「そいつァ、よく言われる」
「・・・・で? 誰が・・・・こんなに代わりを寄こせって言ったのよ」
汗ばんだゾロの胸板に突っ伏し、ナミは恨めしそうな声をあげた。
「三倍返し位にはなったろ? お前の好きな」
しれっと言い放つも、ゾロはしごくご満悦の様子だった。
「もう・・・・・いい・・・・・くたびれ・・・」
口調にゆったりとした重みが加わり、やがてナミの体から力が抜ける。
そのまま寝入ってしまったらしいナミの、柔らかな髪をゾロの大きな手が撫ぜた。
それでも目を覚まさないことが分かると、ゾロは何か考え込むような表情を見せる。
無意味に辺りを伺い、それから咳払いを一つ。
「誕生日おめでとう、な」
規則正しい寝息はそのままに、頷くようにオレンジの髪が揺れている。
言ってしまってから、ゾロはバツの悪さを誤魔化すように乱暴に自分の頭を掻いた。
その胸の上でひっそりとナミの笑顔が咲いたことは、その夜の秘密。
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