字書きさんに100のお題


  94.限りある<チョッパー> Date:  
海賊船の船医になって、驚いたことは山のようにある。
その最たるものは、医者にかかったことなんて生まれてこの方一度しかない、と言い切った男の体を見た時のことだった。

どうして今こうやって生きていられるんだ、と逆に尋ねたくなるほどの胸の大傷(これが医者の治療を受けた唯一なのだろう)、脇腹の刺し傷、両足首の切り傷(両方自分でやったと言われて驚いていいんだか、呆れていいんだか一瞬迷った)その他色々。
今までどうやって治してたんだと聞いたら、酒飲んで寝るだって。吃驚した。

人間の体には限界がある。
どんなに手を尽くしても、受けたダメージを完全に消し去ることなんてできない。
蓄積された痛手はいつか体全体を蝕む。あんまり無茶をしては駄目だ。
そんな風に言って聞かせた後だった。
惜しんだり、恐れたりしてたら自分は生きられない、と男は笑った。
医者としては、きちんと叱っておかなくちゃならないところなんだろうけど。
まいったな。
そんな顔で笑われると、信じたくなってしまう。
何があっても変わることのない限りないものを。

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