字書きさんに100のお題


  95.苦笑 <ワイパー×アイサ> Date:  
目の前に垂れた三つ編みが息をするたびに上下に揺れる。

「アイサ!」
名を呼ばれてアイサは顔を上げる。
すらりと伸びた手足に長い髪。それは戦いが終わってから伸ばし続けている。
近づいてくる村人に向かい、アイサは笑いかける。
その笑顔には子供の頃のあどけなさが面影がとして残っていた。
「ラキ、戻ってるんだって?」
アイサの問いかけに村人もまた笑顔で頷く。
神の元で荒れた国土の復興を補佐しているラキは、なかなか村に顔を出す時間が取れない。
「今は長に報告に言ってるからじきに戻るだろうさ」
「そっか」
相槌をうつとアイサは少しの間思案するように小首を傾げる。
「じゃあ、もう少ししたらまた来るね」
そう言うとアイサは、怪訝そうな顔を見せる村人を残し、また駆け出す。
「どうした? アイサ」
尋ねる村人にアイサは振り返り、笑顔で答える。
「ワイパーも連れてくるねぇ!!」
そのまま村の外れまで真直ぐに駆けていく。
村人がその姿を見送ったところで長の住居の幕が持ち上がり、ラキが姿を見せる。
「あれ? アイサの声が聞こえてたんだけど」
「今さっきまでいたんだけどね、ワイパーを迎えに行ったよ」
それにしても、と村人は苦笑を向ける。
「アイサといったら昔はラキにひっついて離れなかったのにねぇ」
ラキは肩を竦めてみせる。
「それに昔はあんなにワイパーを怖がってたってのにねぇ」
村人とラキは顔を見合わせて意味ありげに笑った。



「やっぱりここにいた」
安置した黄金の鐘。その傍らに寝転がっていたワイパーは突然降ってきた明るい声にうるさそうに目を開けた。
「何だ?」
「ラキが戻ってるんだよ」
アイサの言葉にワイパーは気難しげな表情のまま身を起こす。
「村を出た奴のことなど知らん」
背を向けたまま吐き出された怒りともとれるその口調に、だがアイサはにっこりと笑った。
「そーんな憎まれ口叩いてるけど、ホントは寂しいんだよね」
胸の内を見透かされ、むっつりと押し黙ったワイパーにアイサは畳み掛けるように言葉を続ける。
「素直じゃないからなぁ、ワイパーは。そんなだから未だに独り身なんだよ」
くすくすと笑いながら、アイサはワイパーの背に抱きつく。

子供の頃はただ恐ろしかった。この人の怒りの気が。
けれど今なら分かる。怒りの中にも隠された感情があるということを。それは悲しみだったり照れだったり。
人の感情は簡単には類別できないことを。

「私ならワイパーが何を言っても怖くないからね」
知らぬ間にこんなにも強く、そして美しくなった少女。
ワイパーは苦笑を浮かべると、右手を伸ばし少女の頭を引き寄せた。

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