96.クローバー<ゾロ> | Date: |
緑の野原に風が渡る。
そよぐ風は心地よく、うとうととしかけた意識の端でゾロは花を手折る音を聞いていた。
揺れる草花の中に完全に溶けてしまいそうになったその時、柔らかな何かがゾロの額を撫ぜた。
・・・・?
ゾロは薄く目を開ける。
狭い視界の中に緑の尾が見えた。
傍らに座っているナミが一心に三つ葉を編んでいた。
長く伸びたその端がゾロを眠りの底からすくい上げたのだった。
ゾロはぼんやりとその姿を眺めた。
幼い頃にもこんな光景を目にした。
緑の海の中、くいなが三つ葉を編んでいた。
竹刀を振るう時とは全く違った表情のくいな。
あいつは女だったんだな。
亡くしてこんなにも時が過ぎた今、思う。
あの頃は開きすぎた力の差だけに目がいって、気づかなかった。
泣きながら、くいなが女であることを訴えた、あの夜のことをゾロは思った。
ゾロの視線に気づいたナミが微笑みながら端と端を結ぶ。
出来上がった三つ葉の冠を、ナミはそっとゾロの頭に乗せた。
ゾロはその冠を目の前にかざした。
青い空に緑の冠はよく映える。
あそこからも見えるだろうか?
丸く切り取られた空は一点の曇りもなく澄みきっていた。