字書きさんに100のお題


  97.息を止めた<ゾロナミ> Date:  
「ナミさん、ちょっとこっち来て」
ビビに連れられて入った宮殿の一室には、何故か嬉しそうな顔のテラコッタ女史と侍女が一名。
開いた扉の前で首を傾げたナミの背を、ビビが両手で押して部屋に入った。
「待ってたよ、海賊のお嬢さん。さぁさ、こっちにおいで」
「って? え? え!?」
頭の上に疑問符を飛ばしているうちに、着ていたワンピースは脱がされ、ナミはあっという間に下着一枚にされてしまった。
「な、な、な・・・!?」
助けを求めるように向けた視線に、ビビはにっこりと応え、作りつけの大きなクロゼットを開いた。
そこには柔らかな布で作られた、色とりどりの衣装が幾つも仕舞われていた。
「どれでもお好きなのをどうぞ」

「折角、良い姿形してるんだから、磨かないとバチが当たるってもんよ」
力説するテラコッタは、遠慮なしにナミに衣装を着付けていく。
ずらりと並んだ衣装。選びかねていると全部を試着させられそうな勢いだったため、ナミはその中から一番シンプルな形のものを選んだ。
淡い虹の色で染められたその衣装には、首の周りから胸元まで銀糸で繊細な刺繍が施されている。
「あぁ、よくお似合いだよ」
ぎゅうぎゅうと締め上げられ、絶息しそうなナミをテラコッタは満足そうな眼差しで見つめた。
「こうやって着飾らせるのが私の生きがいだってのに、どこかの姫様は突然姿をくらましてくれて」
冗談めかして嘆息するテラコッタを見て、ビビは気まずそうに空咳を繰り返し、それから女だけの部屋は賑やかな笑いに満ちた。

「じゃ、呼んでくるからちょっと待っててね」
笑顔でビビは部屋を出て行く。
「呼んでって何をよ!?」
「もうちょっとお待ち」
ビビの方へ向けた顔は、テラコッタの手であっさりと鏡に向き直された。
結い上げた髪を銀の髪留めで留め、アラバスタ風の化粧を施し、ようやくテラコッタの手が止まった。
「さぁ、これでいい」
テラコッタが笑うのと同時に扉が開いた。
「おい、何だってん・・・だ・・・・・・よ・・・」
ナミが振り向くと、低い声は徐々に尻すぼみになり、そして消えた。
困ったような表情のナミを、ポカンと見つめるばかりのゾロを見て、ビビは小さな笑いを零す。
はいはい、と二人の背を押し、外へと追いやった。
「宮殿の裏手にね、ちょっとした庭園があるの。今は誰もいないから、ごゆっくり」
黙ったまま歩き出した二人を、ビビは手を振って見送る。その背をテラコッタが叩いた。
「さ、次はビビ様の番ですよ。ビビ様にだって見せたげたい殿方がおありなんじゃ?」
テラコッタの言葉に、ビビは一気に耳までを真っ赤に染めた。

全く。
呆然としたところを上手く乗せられてしまった。
傍らにナミを連れて、ゾロは密かに嘆息した。
宮殿にはまだ大勢の兵士が詰めていて、すれ違う度にナミに視線を投げつけ、中には振り返ってまでその姿を眺めている者もあった。
綺麗に着飾ったナミに対して、ゾロは黒の上下に腹巻、帯刀といった格好で、先の大宴会で顔を知られてなければ、人攫いか何かに間違われてしまうかも知れない、そうゾロは思った。

外へと抜ける扉を開くと、ビビが言ったとおり、人気のない石庭に着いた。
それまで誰も省みる余裕がなかったのか、砂地には誰の足跡もなかった。巨岩の隣に石造りの東屋がある。傍を流れる水路は今は涸れているが、いずれ涼しげな音をたてることだろう。

庭への段差を下り、ゾロはスタスタと歩き出したが、ナミがついて来ないことに気づき、振り返る。
ナミはまだ段の上にいて、しきりに裾を気にしていた。
ゾロが戻ると、やはり困ったような顔でナミは口を開いた。
「ちょっとね、こういうずるずるした衣装は着慣れないのよ」
部屋を出てから、何となく気恥ずかしくてまともに見られなかったが、改めて見るとやはり・・・・・
「その服、似合うな」
「えっ!?」
「がっ!?」
驚いたナミの顔を見て、ゾロは頭の中身をうっかり漏らしてしまったことに気づいた。
あぁ、うぅ、と意味不明の呻き声をあげるゾロと、思いもかけないストレートな褒め言葉にうろたえるナミは、二人してその場で暫くの間俯いていた。
やがてどちらからともなく、笑い声が上がり、
「お手をどうぞ、お姫様」
少しぶっきらぼうに差し出された手に、くすぐったそうな顔で、それでも嬉しそうにナミは手のひらを預けた。




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Z to N. words:その服、似合うな by 四条様

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