字書きさんに100のお題


  98.無駄な夢<ロビン+フランキー> Date:  
海列車の窓越しに、ロビンはどこまでも続く海を見ていた。

海はどこまでも続く。
けれど、その海を走る列車には終着点がある。そしてそこで自分の命は終わるのだ、と思っていた。
自分が他人の為に死ねる、とそのことが分かっただけでもよかった。
それは不毛の大地にたった一輪咲いた花のようだ。その一輪の花をきっと彼らは覚えていてくれるだろう。

それだけで。



なのに、あの男が言った一言が頭から離れない。

存在することは罪にはならない。
きっぱりとそう言い切った男の姿が窓に映っている。
眠っているのか目を瞑り、微動だにしない風変わりな男。
ロビンの視線は変わらず海の方へと向けられている。けれど目に映る海はぼやけ、男の姿が鮮明になった。

存在することは罪にはならない。
ロビンは頭の中で繰り返してみた。そんなことは信じられない。
様々な組織に組し、組した全てが崩壊した。意図的に、或いは意図せずとも。
悪党を選んで身を置いていたのは、そこが隠れ蓑に適しているのと同時に、例えその組織が崩壊したとしても心を痛めずに済むからだった。

その意味では、麦わら海賊団は鬼門だったのだが。
ほんの僅か、ロビンの口元が苦笑の形に歪んだ。


「ネーチャンはよぉ」
突然の呼びかけに、ロビンは弾かれたように顔を上げた。
眠っていたと思っていた男はいつの間にか目を開け、じっと前を見ていた。
「この先の人生、夢も希望もねェのかい?」
「どうしてそんなことを聞くの?」
見つめるロビンの瞳をフランキーはチラと見て口を開いた。
「帰る場所がある。帰って来いと言う声がある。なのに帰ろうとしねェ」
ロビンは黙ったままじっと男の角ばった横顔を見ていた。
「よっぽど世を儚んでるのかと思ってよ」

ロビンは答えない。視線を腿の上の拳に落とす。きつく握り締めた拳は細かく震えた。
視界の隅にとらえたそれが答えのようにフランキーには思えた。

「戻ってやんな。俺も海賊なら色々見てきたが、アイツ等なら何があっても大丈夫だろうよ」
フランキーは拘束された両手を軽く上げてみせた。
「何たってあの麦わらはスーパーな俺様と引き分けたくらいだからな」

拳から目を上げると、ロビンは驚いた顔でフランキーの横顔に目を向けた。
一体いつ―と問いかけて止め、ロビンは別の言葉を口にした。

「存在することは罪にはならないって、アナタは本当にそう思ってるの?」
「当たり前だ」
今度はきちんとロビンの目を見、フランキーは語気を強くして答えた。
「そうじゃなきゃあ、俺の夢の全てが無駄になる」
そんで、とフランキーは再び目を閉じて静かに笑った。

「無駄にしていい夢なんてこの世のどこにもねェのさ」

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