6.庭<ゾロ> | Date: |
道場を併せ持つくいなの家の庭は広かった。
庭師と一緒に先生が手入れした庭木は皆、さっぱりと潔い形をしていた。
青々とした庭。
空を抱くように枝を伸ばす松。
池には鮮やかな緋鯉と黒く大きな真鯉がいた。
そのほとりで、割り箸に糸をくくりつけ、ザリガニを釣った。
釣れたザリガニを、糸ごとくいなの目の前に垂らしたら、竹刀で突き返されて、ハサミで強かに鼻をつままれた。
庭を抜けると、竹林があった。
その中を石畳でできた細い道に、幾つもの鳥居が連なっていた。
その奥に小さな社があった。何を祀っていたのかは、今も知らない。
真っ直ぐに伸びる竹の緑と、鳥居の赤。
秋には、くいなが駆け抜けた後、石畳の脇で曼珠沙華が揺れた。
緑と赤の風景。
子供の頃はあの庭が世界の全てだった。
これが自分の原風景とやらなのだろうか。
似たような景色を見ると、不意に心が揺すぶられる。
急かされ、走り出さずにはいられないような感覚。
俺の庭は、今、どこまでひろがっているのだろう。