字書きさんに100のお題


  7.星<ルビビ> Date:  

冷やりとした夜気が風呂上りの火照った身体を優しく包む。
「おー! いい眺めだな!!」
上機嫌な様子で手すりから身を乗り出すルフィに目をやり、ビビは笑う。
「落っこちないようにね。ルフィさん」
あぁと応じる声はどこか上の空で、ルフィは目の前に開ける光景をただじっと見つめていた。
場所はアルバーナ。宮殿の最上部に程近いビビの私室テラスから二人は砂の国の夜を臨んでいた。
篝火の揺れる街のその奥に、地平まで続く砂漠がある。月の光に青く照らし出された大小の丘陵は、ビビに大海原を思わせる。
「何か砂糖の山みてェだな」
どうやらルフィはまた違った感想を持ったようだ。彼らしい物言いにビビはクスリと笑みを零した。
「他にも凄いものはあるのよ」
そう言い残し、ビビは室内へと姿を消す。
「ビビ?」
振り向いたルフィの目に、右腕に大きな布を下げて戻ってきたビビの姿が映った。
ビビは指先を天に向ける。そこには満天の星空があった。
「おぉっ!!?」
「昔からよくここに寝転んで星を眺めていたの」
ビビは腕に下げた布を軽く上げてみせた。
「本当は、砂漠の中で見たほうがもっと綺麗に見えるんだけど。あの時はそんな余裕なかったから――――ってルフィさん!?」
話の途中で、突如腰に回された腕に、ビビはたじろぐ。自分に向けられる大きな瞳を見て、ルフィはニイと不穏な笑みを浮かべた。
「じゃあ、行ってみっか?」


「んもう! 信じられないっ!!!」
砂の上に広げた布の上にへたり込み、ビビはぐらぐらと揺れる頭を片手で押さえている。
悲鳴を上げる間もなかった。高台にある宮殿のほぼ最上階から飛び出して、街を一足飛びにし、あれよあれよという間に砂漠にまで出ていた。
目を回しているビビの隣で、ルフィは大の字に寝転ぶ。
「本当だ。さっきより凄ェ!」
瞬きもせずに星空を眺め、ルフィは空へとその手を伸ばした。手のひらを空に向ければ、指の合間から星が零れてきそうな気さえする。
「落ちてきそうだな」
ルフィは伸ばしたその手をビビに向けた。こめかみの辺りを押さえるビビの手首を掴み、ぐいと引き寄せた。不意をつかれたビビは何の抵抗も出来ずに、ルフィの胸元に倒れ込む。ルフィの身体をすっぽりと包んでいる薄い衣装越しに硬い胸板に両手をつけば、手のひらに伝わる鼓動はビビのそれと同じくらいに速い。
硬い筋肉がゆっくりと動く。僅かに上体を起こしたルフィの笑顔がビビの目の前にあった。
「綺麗だな。お前の国は・・・・来てよかった」
ルフィのその言葉は、ビビの心を温かな思いで満たした。
大事な人が、自分の大事なものを好きになってくれた。そのことがこんなにも嬉しい。
「・・・・・ありがとう」
微笑む唇をルフィは静かに塞ぐ。

その夜の、唇の熱さと星の輝きを決して忘れない。

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