字書きさんに100のお題


  8.夜<ロビン+ナミ> Date:  

「寝室はこっち」
連れてこられたのは、ベッドが二つ置かれた女性専用の船室だった。
「アンタはそっちのベッド使って」
そう言って、この船の航海士嬢はさっさと着替え始めたので、顔にこそ出さなかったが、私は内心とても驚いていた。
「同室なんて危ないとは思わないの? 私はついさっきまで敵だった女よ」
表情も声の抑揚も敢えて消して尋ねてみた。
「別に。ルフィがアンタを受け入れたんだもの」
何でもないことのように彼女は答える。
「船長さんの命令なら命を落としても仕方ないってことかしら?」
「違うわよ」
薄い掛け布を引っ張り上げながら彼女は笑った。
「ルフィがああ言った以上、アンタは私達には危害を加えないのよ」
そうして欠伸を一つ。
「人を見る目はあんのよ、アイツ」
とても綺麗に笑んだ後、何事か思い出したようで、そうだ、と彼女は真顔で私の顔を見た。
「念の為。もしかアンタに手ェ出そうとするヤツがいたら遠慮なくやっちゃっていいからね」
逆に心配されてしまった。
クスクスと笑う声は、あろうことか自分のものだった。
「敵わないわね」
消していたはずの表情が、気づけば笑顔になっている。
この船に滞在して僅か半日で、既にこれまでの二十年分笑ったように思えた。
「何か変なこと言った? 私」
きょとんと見つめる視線に私は首を振る。
「じゃ、寝るわよ。今日は色々あってくたびれちゃった」
ベッドから伸びた手が灯りを落とす。
「お休み」
「――― お休みなさい」



優しい夜が、ここにはあった。




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R to N. words:敵わないわね by えみ様

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