字書きさんに100のお題
「これにて三月もおしまい、か」
ベリベリと盛大な音をたてて、サンジはキッチンの壁にかけたカレンダーのページを破った。
そのまま丸めてくずかごに放ろうとしたところにナミの声がとんだ。
「あ! それ捨てないで、頂戴」
へ? とサンジは手にしたカレンダーに目をやる。
「これ?」
コクリと頷くナミに、頭の上に疑問符を乗せたままでサンジはカレンダーを差し出した。
「サンジ君が来てからのカレンダー、全部持ってるのよ。私」
テーブルの上で、紙についたくせを丁寧に伸ばしながらナミは言う。
何でまた。サンジの頭に疑問符がもう一つ増えた。
やがてサンジは何か了解したというようにポンと手を打ち、満面の笑みをナミに向けた。
「それは俺への密かな愛故に!!」
「・・・じゃなくて」
ナミはあっさりとサンジの言葉を否定し、しょんぼりしてみせるサンジを見てクスクスと笑みを零した。
「なるべく日誌は毎日つけるようにしてるんだけど、どうしても手が空かなかったりする日もあるでしょ?」
そう言ってナミはカレンダーに目をやる。日にちの下の空いたスペースに細かな文字でびっしりと書き込まれたメニューの数々を指先で優しく撫ぜた。
「そういう時にこれ見て思い出してたの。あれ食べた日には――って」
「食からの連想?」
「そ。意外に思い出すものなのよね、これが」
それにさ、とナミは小悪魔のようにキュートに笑った。
「後で高値つくんじゃないかなと思って。『海賊王の食卓』なんてどっかの出版社に持ち込んだら」
案外本気で考えるらしいナミを見て、サンジは可笑しそうに肩を揺らす。
「底なし食欲大王との戦いの記録か。そら涙なしにゃ読めねェ大ベストセラーになるぜ」
芝居がかった仕草で目元を押さえてみせるサンジに、涙ねぇとナミは肩を竦めた。
「じゃ、これからは毎月ナミさんに渡すよ。愛を込めて」
「ありがと。儲かったらちょっとは還元してあげてもいいわよ」
ウインクしながら、ちょっとは、の部分を強調するナミに、サンジは苦笑しながらも恭しく手を伸ばす。
「還元か・・・・だったらデートしてよ、ナミさん」
「デートでいいの?」
大きな目でサンジを見つめ、ナミは笑う。
「ほんと欲のないヒト」
そうかな、とサンジは軽く首を傾げると、ちらりと意味深な笑みを返した。
これから何枚何枚も、それこそ数え切れないくらいカレンダーを重ねて、その先にあるデートの約束。一緒に過ごすそこまでの時間を考えたら随分贅沢な望みだと思うんだけどな。
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