字書きさんに100のお題


  17.宇宙<ゾロナミ> Date:  

真夜中、ゾロのいる見張り場にナミが潜り込んできた。冬の気候海域のど真ん中で、吐く息が白い。
「風邪ひくぞ」
厚手の外套を着こんで尚、ナミは寒そうに身を震わせている。その様を見てゾロは顔を顰めた。
「星をね、見に来たの」
「この寒いのにご苦労なこった」
ゾロが被っていた毛布の前を開けると、ナミは嬉しそうに身を寄せた。
「寒いほうが綺麗なのよ」
ナミが見上げた空をゾロも見上げる。
音すらも凍りつきそうなほど冷たく澄んだ夜空に、星々は強く瞬く。
ね、とナミが身を捩る。
「宇宙には果てがなくて、その中のどこかでは私達とは違う私達が別の人生を送ってるって信じる?」
「あ?」
果てがない上に何だって?
「もしかしたら、あの空の向こうでは私とゾロが家族だったり、もしかしたら全然出会ってないかもって話」
俄かには信じられない。そんなのは夢物語だろう。けれど、とゾロは思う。
あの遠い空のどこかに今とは違う道を歩んでいる自分がいるのだろうか。
そこでは、くいなは死なずにいるのかも知れない。或いは、逆にナミが―――
ゾロはナミの前で生まれては消える真白な息を見つめた。

夜空に引き込まれるように現実感が気迫になる。
今こうしてナミを抱いていることが、ほんの偶然のように思えてくる。
心から何かが剥がれ落ちたような気がする。虚ろになった場所で、ざわり、と恐怖心が首をもたげた。

「どこにも―――――」
こんなものは自分の言葉ではない。それでも口にせずにはいられなかった。
知らず、ナミを包む腕に力が入る。ゾロの声は掠れた。
「行くんじゃねェぞ」
「迷子を残してなんて、どこにも行けないわよ」
そう言ってナミが笑ったので、ゾロはそこで宇宙について考えるのを止めた。

[前頁]  [目次]  [次頁]


- Press HTML -