字書きさんに100のお題


  18.流れ星 <サンナミ> Date:  

「夜這い?」
ナミの口から突然飛び出した場違い、かつ刺激的な言葉にサンジは目を丸くする。


場所はキッチンの外。煙草をふかしにキッチンを出たサンジがふと夜空を見上げれば、ひらりと落ちる光が目に入った。
眉根を寄せたサンジの目の前に、時を置かずしてもう一つ星が流れる。子供のように瞳を輝かせたサンジは勢い込んでキッチンの扉を開け、ナミを呼んだ。


「夜這い『星』」
星、の部分を強調してナミは繰り返す。
海を往く者にとって星は近しい存在だ。辛い夜に、切ない夜にも星はいつもナミの上にあった。
驚いた顔のサンジを横目に、ナミはクスリと笑みを零して解説を加えた。
「流れ星のことをそんな風に呼ぶところもあるの」
サンジから目を離し、ナミは夜空を見上げる。一つ、また一つと夜空に銀のラインが描かれては消えていく。
「恋して人にね・・・・会いたい気持ちが身体を抜けて、夜空を駆けてその人のもとにいく心が流れる星になるんだって」
「そりゃ何とも色っぽいお話、で・・・」
夜空からナミへと視線を移した途端、サンジの軽口が止まった。空を見上げるその横顔は、空を渡る銀の尾と同じように儚げで。ともすれば消えてしまいそうなその顔に、サンジは言葉を失うほどに見惚れてしまう。
「・・・どうかした?」
「・・・・え、あ!?」
しまった、とサンジは思った。見惚れていた、といつものように言えばよかったのに、それができなかった。余りにも本気で見惚れていたから。
まっすぐ見つめてくる瞳に全てを見透かされてしまいそうで、堪らなく気恥ずかしい。そのくせ、そこから目を離すこともサンジにはできなかった。
深く吸った煙を吐いてようやく態勢を整えたサンジは、なら、と芝居がかった口調で天を仰いで片手を広げ、その手をナミに差し出す。
「今、降り注いでいる星全てに、ありったけの思いを込めて貴女へ」
「ばかね」
怒っているのか面白がっているのか、判別不能の瞳でナミはサンジの瞳を覗く。戸惑い顔に構うことなくネクタイを引っ張り、ナミは近づいた口元から煙草を取り上げた。
「こんなに近くに居るんだから、ちゃんと手の届くモノにしてくれる?」
「へ?」
間の抜けた声を上げた口をナミの唇が塞ぐ。
その唇がチラリと笑むのと同時にナミの手から放られた煙草は、星と同じ軌跡を描いて海へと流れた。

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