20.攻守<サンナミ> | Date: |
買出し日和とデート日和は並び立たない。
食材の鮮度は落とせないし、レディのお買い物にじっくりお付き合いできないのも許せない。
両手に紙袋を抱えて、一人サンジは船へと戻る道を足早に歩いていた。
さっき見た海老はやっぱ買いだったな。
つらつらと頭の中でメニューを組み立てながら歩くサンジは、その視界の端に鮮やかなオレンジの髪をとらえた。
「あれ? ナミさん・・・と?」
どこぞの海賊の下っ端か、或いは暇を持て余した港湾関係者か。ガタイがよくてガラの悪い男が三人、ナミの行く手を阻むように立ち塞がっていた。
「ナァミさーーんv」
目の前の男を完全無視で、サンジは全開の笑顔でその間に割って入る。
「何だテメェ」
上から思い切り見下ろしてくる視線に、ようやくサンジは男達に向き直り、気負った様子もなく口を開いた。
「アンタらなぁ、ナンパは相手見て仕掛けたほうがいいぜ。この人はな怖いぞ。でもって、おっそろしく高くつくからな」
「そうよ! 誰がタダで付き合うもんですか!」
息巻いたナミだったが、ふと我に返り、サンジのジャケットを引っ張った。
「・・・・何か、話ずれてない?」
あはは、と軽く笑ってサンジは瞳に好戦的な光を浮かべた。
「つまるとこ、結論は、俺の女に手ェ出すなってこった」
向けられた不敵な笑みに、男達は揃って小馬鹿にしたような視線をサンジに向けた。
ひょろりとした丸腰の優男。しかも、両手に抱えた買い物袋の右からはパンが、左からはトマトが頭をのぞかせている。
「俺の女、ときたか!?」
「どうやら尻に敷かれてるみたいじゃねぇか」
「だったら手前の女が従順になるように、俺達が仕込んでやっからよ」
ニタニタと笑いながらナミに伸ばした男の手を、サンジは物も言わずに蹴り上げた。
「汚い手で触んじゃねェよ」
それまで見せたことのない鋭い視線は、次の瞬間、ナミに向けられ一転和やかなものになった。
「ゴメン。ちょっとこれ持ってて。割れ物とか入ってんだ」
「手前、ふざけてんじゃねぇぞっ!!」
背後からの怒声に振り向いた顔は凶悪な笑みで、ただの一蹴でサンジはあっさりと勝負をつけた。
「ありがと。でも」
ナミはサンジに袋を手渡しながら、小首を傾げる。
「"俺の女"ってどういうこと?」
「えっと・・・・前からいっぺん言ってみたかったんだよね」
少し照れたように笑った後、サンジは真面目な顔でナミに囁く。
「けど、どお? ナミさん、今度こそ惚れた?」
「そうね」
ナミはサンジのネクタイを掴むと、ぐい、と引き寄せる。
お!?と嬉しそうにナミの方へとサンジは身体を傾けたが、ナミはすいとそれを避けると、いつの間にか組み立てていた棍をサンジの顔のあった場所に突き上げた。
「ぐ・・・・・ぁ」
唯一人起き上がっていた男の顔の真ん中に、棍がめり込んでいた。
手元に戻した棍でナミが地面を打つと、それを合図にしたように、男はどうと地面に倒れた。
「もう少しツメが甘いかな?」
至近距離のサンジに優雅に笑いかけ、ナミはスタスタとその場を後にする。
凛としたその姿を見送って、サンジは溜息と共にその場にしゃがみ込み、足元に転がっている男に苦笑を向けた。
「な、だからおっかないって言ったろ?」request
S to N. words:ナミさん、今度こそ惚れた? by k様