字書きさんに100のお題


  31.羽<ビビ> Date:  

空を見上げる。
ひらりと影が地面を横切るたびに。
そんな癖がついた。



地を走る影を目にするたびに呼吸が止まる。
そして空を見上げる。
悠々と舞い、去っていく鳥。
それを見送っては息を吐き出す。



空を見上げる。
今自分が息をしているのかしていないのか分からなかった。
そんなことはどうでもよかった。
真上で旋回する大きな鳥。
その翼を知っている。



「・・・・・あっ・・・あぁぁ」

口元にあてた手が震える。
迷うことなく下りてくる鳥。
ひらり、と一枚の羽が落ちてくる。
その羽を知っている。

地に着く直前、その翼はしなやかな腕に、鋭い爪を持つ足は人のそれへと変わる。
その人を知っている。


「あ・・・あぁ・・・・うぁぁぁっ!」
駆けだし飛び込んだビビの身体をペルは力強く抱き止めた。
号泣し、しゃくりあげながらもビビは声を絞り出す。
「よく・・・よく生きて・・・」
「・・・・はい」
ただ一言その返事を聞いただけでビビはも何も言えなかった。
泣きじゃくるビビを抱きしめ、ペルもまたその瞳を震わせた。

「夢みたい・・・」
ペルの腕の中でビビは涙に濡れた顔をあげ、笑う。
「夢では私が困ります」
大真面目な顔でそう言った後、ペルは顔をほころばせる。
そんなペルの顔を見ていたビビがふいに怪訝そうな表情を見せる。
そして何かに思い当たったような顔で口を開く。
「何か違うと思ったら、ペル、いつもの帽子がないわ」
ビビの指摘にペルは苦笑を浮かべる。
いつもはきっちりと覆われている髪が、今は流れ吹く風に踊っている。
「慌てていて忘れてしまったようです。何しろ一刻も早くお戻りしたかったので」
ペルの言葉にビビは目を細める。
「本当によく帰ってきてくれました」
ビビはペルからその身を離す。
真直ぐにペルを見つめるその瞳は一国の王女としてのものだった。
自然、ペルはビビの足元に片膝をつく。
「あなたの働きのおかげで数え切れぬほどの民の命が救われました。
いくら礼を尽くしても足りません。何か望みは、貴方の為に私ができることはありますか?」
「私は自分の使命を果たしたに過ぎません。ビビ様のそのお言葉だけで身に余る光栄。
ただ一つ望みがあるとすれば・・・・」
ペルは微笑を浮かべる。
「二度と戦いのない国を、貴女と共に」
「分かりました」
真摯なその瞳を受けてビビは力強く頷く。

それからビビは再び一人の少女の顔に戻ると、身を屈めてペルに耳打ちする。
「だからたまにはまた背中に乗せてね」


二人が立ち去った後、一枚残された羽を砂漠の風は連れて行った。

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