字書きさんに100のお題
空を見上げる。
ひらりと影が地面を横切るたびに。
そんな癖がついた。
地を走る影を目にするたびに呼吸が止まる。
そして空を見上げる。
悠々と舞い、去っていく鳥。
それを見送っては息を吐き出す。
空を見上げる。
今自分が息をしているのかしていないのか分からなかった。
そんなことはどうでもよかった。
真上で旋回する大きな鳥。
その翼を知っている。
「・・・・・あっ・・・あぁぁ」
口元にあてた手が震える。
迷うことなく下りてくる鳥。
ひらり、と一枚の羽が落ちてくる。
その羽を知っている。
地に着く直前、その翼はしなやかな腕に、鋭い爪を持つ足は人のそれへと変わる。
その人を知っている。
「あ・・・あぁ・・・・うぁぁぁっ!」
駆けだし飛び込んだビビの身体をペルは力強く抱き止めた。
号泣し、しゃくりあげながらもビビは声を絞り出す。
「よく・・・よく生きて・・・」
「・・・・はい」
ただ一言その返事を聞いただけでビビはも何も言えなかった。
泣きじゃくるビビを抱きしめ、ペルもまたその瞳を震わせた。
「夢みたい・・・」
ペルの腕の中でビビは涙に濡れた顔をあげ、笑う。
「夢では私が困ります」
大真面目な顔でそう言った後、ペルは顔をほころばせる。
そんなペルの顔を見ていたビビがふいに怪訝そうな表情を見せる。
そして何かに思い当たったような顔で口を開く。
「何か違うと思ったら、ペル、いつもの帽子がないわ」
ビビの指摘にペルは苦笑を浮かべる。
いつもはきっちりと覆われている髪が、今は流れ吹く風に踊っている。
「慌てていて忘れてしまったようです。何しろ一刻も早くお戻りしたかったので」
ペルの言葉にビビは目を細める。
「本当によく帰ってきてくれました」
ビビはペルからその身を離す。
真直ぐにペルを見つめるその瞳は一国の王女としてのものだった。
自然、ペルはビビの足元に片膝をつく。
「あなたの働きのおかげで数え切れぬほどの民の命が救われました。
いくら礼を尽くしても足りません。何か望みは、貴方の為に私ができることはありますか?」
「私は自分の使命を果たしたに過ぎません。ビビ様のそのお言葉だけで身に余る光栄。
ただ一つ望みがあるとすれば・・・・」
ペルは微笑を浮かべる。
「二度と戦いのない国を、貴女と共に」
「分かりました」
真摯なその瞳を受けてビビは力強く頷く。
それからビビは再び一人の少女の顔に戻ると、身を屈めてペルに耳打ちする。
「だからたまにはまた背中に乗せてね」
二人が立ち去った後、一枚残された羽を砂漠の風は連れて行った。
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