字書きさんに100のお題
「全隊、止まれ!」
先頭を行く馬上の男の号令は次々と後続へ伝えられる。
砂漠の中に黒々と続く行軍の波はしばしうねり、やがて止まった。
「どうした? コーザ」
背後から問い掛けた男に、コーザは黙ったまま振り返ることなく地平の彼方を指す。
そこには靄のような線が見える。
今は薄く見えるその靄はあっという間に津波の如くこちらに襲いかかってくるだろう。
コーザの指す先を見て、男は顔を顰め、短く舌打をする。
「砂嵐か、こんな時に」
「すぐに各隊に伝えろ。ここでやり過ごす」
あぁ、と一つ頷くと男は馬の首を反転させた。
身を寄せる木一つないこの砂漠で僅かな窪地を見つけ、そこに身を潜める。
皆が皆、荷を抱え、マントに包まりじっと息を殺す。
やがてポツリポツリとマントの表に砂粒がぶつかり出す。
乾いた、だが雨粒にも似たその音をコーザは苦い思いで聞いていた。
今や嵐は全てを飲み込もうとするように轟々とその威を示している。
あれほど眩しかった太陽さえも遮り、辺りは夕刻のように仄暗い。
どこかで駱駝が悲しげに呻く声を聞いた。
コーザは目を瞑る。
しっかりとマントを閉じていてもどこからか砂は入り込んでくる。
どこまでも無遠慮にどこまでも無慈悲に砂は埋めていく。
緑を。
オアシスを。
そして街を。
―やめろ―
コーザは唇をかみ締める。
―これ以上もう何もこの国から奪うな―
嵐が去った後の空は何事もなかったかのようで、太陽もまた容赦なく地を照りつける。
身を起こせば降り積もった砂が音を立てて流れ、足元に小さな山を作った。
コーザは足元の山を見つめる。
自然の力の前に人はこんなにも無力だ。
だが、それに対向できる手段が目的の地にはある。
たとえそれが許されざる道であっても。
―その道に入ろうとする俺に、お前は怒るだろうか、悲しむだろうか―
コーザは目的の地へと目を向け、声を張り上げる。
「行くぞ、アルバーナを陥としに」
―ビビ―
再び歩き出す前のほんの僅かな間、コーザは目を閉じる。
―それでも
今、俺はこんなにもお前に会いたい―
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