39.フレーズ <サンナミ> | Date: |
漂ってきた煙草の香りにナミは目を覚ました。
キッチンで作業しているうちに眠ってしまったらしい。肩にかけられたジャケットの襟元からも煙草の匂いがする。
ジャケットを落とさないように押さえながら、ナミは身を起こす。
ナミの隣に腰掛けている人影は動かず、ただ煙草の煙だけが立ち昇り、やがて夜と同じものになった。
テーブルにうつ伏せていたナミとは逆に、サンジはテーブルに背を預けて足を投げ出している。その姿勢でサンジはじっとナミを見つめていた。
何も言わず、ほんの少し寂しそうな目で。
「サンジ・・・君・・?」
他の誰でもないのは明らかなのに、ナミの言葉には確認のニュアンスが含まれていた。
サンジの口元が少し笑んだ。
「おはよう・・・・っても、まだ全然夜中だけど」
「ありがと、これ」
ジャケットの乗った肩口に手をやり、ナミは尋ねた。
「けど、何してたの? こんなトコで」
「ナミさんの寝顔見てた。あんまり可愛かったもんで」
「馬鹿」
ナミの言葉にサンジは溜息にも似た笑いを吐く。その口元から煙が零れた。
サンジはナミを見つめ続けている。それは静かな視線だったが、ナミを戸惑わせた。不愉快、というのではない。ただ、もどかしいような、居た堪れない思いがした。
「どうしたの? サンジ君・・・・・」
「別にどうもしませんよ?」
それだけを言って、また笑った。向けられた視線は変わらず静かなものだったが、ナミに違和感を与えるほどの力を持っていた。
そうか、とナミは思う。
喋らないのだ。いつもは必要以上に不必要なことばかり垂れ流すその口が動いていない。
饒舌な男の口が閉じて、その分、視線に力が集中しているような気がした。
「今夜は随分静か」
ナミは、昼間のサンジを思い出して笑う。
「お昼なんか『ナミさん、ぼくちんもかまってぇぇ』なんて飛んで来てたのに」
ナミの下手な声真似に、サンジは可笑しそうに肩を揺らす。低く篭る笑い声に合わせて煙は揺れた。
「昼は陽気な寂しがりで、夜は無口な寂しがりなんです。俺ァ」
「どっちにしても寂しがりなのね?」
そう、と頷くと、サンジはようやく体を動かした。
咥えていた煙草を外すと、大分長くなった灰ごと灰皿に押しつける。そうしてナミの方へと身を傾けた。
「だから、俺のこと構ってくれます?」
意味合いの同じ言葉が昼と夜ではこんなに違う。
向けられた切なげな顔に、ナミは苦笑を浮かべる。
本当に計算高くてずるい男。こんなギャップを見せつけるのは卑怯だ。
「私もヤキが回ったのかしら?」
そう言ってナミはサンジの頬をさらりと撫ぜた。その肩からジャケットが落ちた。
「アンタが何だかとっても可愛く見える」
サンジはやはり静かに笑う。それから落ちたジャケットを拾い、テーブルの上に広げた。request
S to N. words:ナミさん、ぼくちんもかまってぇぇ by 匿名様