字書きさんに100のお題


  41.メロディー <ビビ+ナミ> Date:  

船首近くにビビが立っていた。
近くに誰もいない時に、ビビはよくそこに立っている。どこまでも続く海原。その先を一心に見据えている。人を寄せ付けないその背。
今、ビビがどんな顔をしているか、ナミには容易に予想がついた。

「ビビ!」
呼べばビビは振り向く。振り向いた時には、いつも笑顔があった。
ナミはおいでおいでと手招きをし、キッチン脇の樽に座るように促した。
「なぁに?」
ちょこんと腰掛け、小首を傾げるビビをナミは両手で包み込んだ。
「ナ、ナミさん?」
驚いたように見上げてくるビビの眉間に、ナミは人差し指をあてる。
微笑みながらナミが、ゆっくりと円を描くように指を動かすと、ビビの顔からこわばりが取れていく。
「気持ちいいでしょ? 私のね、姉さんが昔よくしてくれたの」
「ナミさんのお姉さん?」
「そう」
ビビはうっとりと目を閉じる。
厳しい表情も、無理に作った笑顔も溶けて流れていくようだった。
やがて、ビビの肩から力が抜け、すっかりと身体をナミに預けるような姿勢になった。
「ナミさんって、良い匂いがするわ」
「そぅお?」
「何だろう? 凄く安心できる――優しくて良い匂い。お姉さんがいるってこんな感じなのかしら?」
ナミの身体にぴったりとくっつけた耳がトクトクと鼓動の音を拾う。
優しい匂い。優しい音。
生きている証。生命の奏でる音。それが、こんなにも愛しい。
あぁ、とビビは思う。それを守るために自分は故郷へと向かっているのだ、と。

「あ、ナミさん! とビビちゃ・・・あれ?」
キッチンから出てきたサンジに、ナミは口元に指をあてて静かにするように伝えた。
「やっと眠ったの。ここのところまともに寝てないみたいだったから」
反乱の激化を報じた新聞を目にしてから、ビビは夜中に何度も目を覚ましていた。
離れていればいるほど、悪い考えは否応なく浮かんでくる。そのことはナミが身をもって知っている。
「運んでもらっていい? 起こさないようにね」
喜んで、とナミに代わって優しくビビを抱き上げたサンジは、その顔を見て相好を崩す。
「ホント、天使みたいな顔して寝ちゃって」
「手ェ出すんじゃないわよ、私の可愛い妹に」
笑う瞳で、ナミはサンジを睨んだ。




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V to N. words:ナミさんって、良い匂いがするわ by 鳥さん

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