50.煙 <サンナミ> | Date: |
それはとても熱い夜。
熱波を孕んだ空気はずしりと重く、闇の隅々までを包み込んでいた。
テーブル上の灯りだけが、周囲の重苦しさとは無縁な風でそこに在った。
気まぐれに揺らめく光の輪を、ナミはじっと見つめていた。
テーブルの上に投げ出すように伸ばした腕、その上に頬を預けたままナミは視線だけを動かす。
灰皿代わりの小皿と、消えかけた煙草が一本。
そこから立ち上る煙はか細く、灯りと同調するように揺れた。
「暑いすねぇ」
降ってきたサンジのうんざり声にもナミは反応しない。
「ねぇ?」
ナミの声が闇に沈んでいくように感じた。
「この煙が消えたらキスしようか?」
サンジが息を飲む。
停滞したままの空気が動くのをナミは感じた。
煙が動く。
長い指がひらめく。
ナミの視線の先に現れたコップがその煙を消した。
ナミはゆっくりと身を起こす。
常には見せない顔がそこにはあった。
緊張すら感じさせる面持ちに、思わずナミは頬をゆるめる。
けれど、その唇が笑みの形を作る前に口づけは、なされた。