字書きさんに100のお題


  2.椅子<ナミ・サンジ・チョッパー> Date:  

「やっと自分より小さいのが入ってきたんだもん」
とはご満悦な様子のナミの言である。
その腕の中にはわたわたとせわしなく手足を動かすチョッパーがいた。
先程、ぼんやりと海を眺めていたところを、こっそりと背後に近づいてきたナミ"捕獲"されたのだった。
獣のくせに鈍いヤツ―とゾロは遠くから呆れ顔で見つめ、サンジは嫉妬半分、羨望半分の表情でナミ達の元へとにじり寄り、おもむろに膝を抱える。
「何してんの? サンジ君」
突然足元で丸くなったサンジをナミはきょとんとした顔で眺めている。
「・・・・小ささをアピール」
反応を探るようにサンジは上目遣いでナミを見る。
「うーん、チョッパーに比べると大分フサフサ感が足りないわねぇ」
くすくすと笑いながら応えるナミを見て、サンジはカッと目を見開く。
「ナミさん! 毛深い男がお好みだったんですねっっ!!」
だったらほらほら、とサンジは水を払う犬のようにプルプルと頭を振ってみせる。
それからすっくと立ち上がり両のズボンの膝をたくし上げ、意外に体毛の濃い脛を見せる。
これでも足りなきゃ、とズボンのボタンに手をかけたところでナミの拳が一撃のもと、サンジを床に沈めた。


派手に膨らんだタンコブをさすりながら、サンジは口から盛んに蒸気を吹き出すヤカンを火からおろす。
ポットに湯を注いでいると、扉が開きチョッパーがそっと中を確認してから入ってくる。
「あれ? ナミさんは?」
尋ねるサンジにチョッパーは首を傾げる。
「結構前に逃げ出したきりだぞ」
チョッパーの答えにサンジは信じられないといった顔を向ける。
「お前な、あんなにセクシーかつキュートなレディから逃げ出すってなどういう了見だよ」
うっ、と身構えるチョッパー。
逃げ出したのは"嫌"だったからだ。けどそれは断じて不快な"嫌"ではない。
それは"恥ずかしい"に近い感情のようにもチョッパーには思えた。こんななりをしているが、歳だって大して違わないのだ。
どうも答えは言葉にし難い。チョッパーは話題をそらすべくサンジの頭を指さす。
「痛そうだな。治療するか?」
憮然とした顔で、何を言うか、とサンジは何故か胸をはる。
「コイツは愛の勲章だぜ」
そう言って片手を天へと差し伸べる。
「君が与えた痛みなら、どんなに辛くたって耐えてみせるよ! ナミっさーんっ!!」
どこにいるかも知れないナミに高らかと誓うサンジを見てチョッパーは溜息と共に確信した。
本物の馬鹿だ、コイツ―

「そんな訳で」
ひとしきり叫び終えたサンジはチョッパーに向き直るとナミを連れてくるようチョッパーに依頼した。

きょろきょろとあちこちを見回しながら階段を昇ったところでチョッパーは思わず頬をほころばせる。
蜜柑の木の植えられているその台座に背を預け、寝入るナミを見つけた。
ぱたりと床に落ちた手の先には読みかけの本がある。
チョッパーはその傍にちょんと膝をつくと、蹄の先でナミの頬をそっとつつく。
「・・・・う・・・ん」
僅かに顔を顰め、か細い声をあげたナミにチョッパーはビクリとその小さな身体を震わせる。
再び浮かんだ安らかな寝顔を目にすると、どうしても起こしがたい気持ちになる。
参ったなこんなところで寝かせていたら風邪をひかせてしまうかもしれない。
とにかく部屋に運ぶか、とチョッパーは自分の小さな蹄に目をおとす。
その硬い蹄はみるみるうちに大きな人の手となった。
背と膝裏に手を添え、チョッパーは軽々とナミを抱き上げる。
さっきとは立場が逆だな、とチョッパーは声を出さずに笑う。

温かく、柔らかな身体。
その鼓動と息使い。
伝わる命の愛おしさ。

自分を抱きたがるナミの気持ちが分かったような気がした。
ちょっと・・・ちょっとだけ―
チョッパーはゆっくりとその場に腰を下ろす。
ナミが寒い思いをしないよう、しっかりと抱きしめたまま。


「・・・チョッパーのヤツ、どこでアブラ売ってやがる」
やがて、紫煙をたなびかせながら軽やかに階段を昇ってきたのはサンジだった。
ひょい、と顔を覗かせ目にしたものにサンジは思わず苦笑を零す。
そのまま身を翻し、戻ってきたときにはその手に毛布を持っていた。
「ったく、椅子役まで一緒に寝ちまってどうすんだよ」
苦言とは裏腹な優しい顔でサンジは小さく笑い、手にした毛布でふわりと二人の身体を包んだ。

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