字書きさんに100のお題


  52.さざなみ <ルナミ> Date:  

うっそうとした森を抜けると、急に視界が広がった。
大きな湖と、真赤な果実の生る木々が目に入る。

太陽の光を好き勝手に乱反射させる湖を眩しそうな目で見た後、ルフィは近くの木に登った。
太い枝に跨って試しにもいでみると、その実は大層甘い匂いをさせたので、ルフィは躊躇うことなく齧りついてみた。
思った通りにその実は甘く、食欲の赴くままに平らげたルフィは、やがて満足してそのまま枝の上で横になった。
風の奏でる木々の音が耳に優しい。うとうとしながらその音を追っていたルフィの耳に、水の跳ねる音が聞こえてきた。
魚でもいるんだろうか。麦わらを被りなおしながら起き上がったルフィの目に、女の白い肌が映った。

岸辺に畳まれた服がある。湖の中心へと進んでいく後姿。オレンジの髪が風になびいた。
ルフィの視線の先で、なめらかな曲線を描く尻から腰へのラインが水に浸かっていく。
そこでナミは足を止め、両手を天へと向けて大きく伸びをした。
風が吹く。
その瞬間、湖面が一斉に騒ぎ始めた。風が生んだ細かな波は白い裸体に寄せられ消える。そしてそこからまた生まれた波は岸辺へと流れていく。
身を飾るもの一つなく、それでも日の光とさざ波に包まれたナミは、まるでおとぎ話伽のように美しかった。
風は止まず、絶えず押し寄せるさざ波は、ルフィの気持ちをも妙にざわめかせる。その模様をじっと見つめていると引き込まれてしまいそうになった。
ルフィは湖面から目を離すと、手近にあった実をひょいと投げてみた。
思いのほか大きな音をたててその実はナミの背後に沈み、そしてすぐに浮かび上がった。
突然の物音に、ナミはビクリと肩を震わせて振り返った。
片腕で胸を隠し、緊張感に包まれた身体はさっきよりも尚綺麗だった。
そこにもう一つ、赤い実が投げ込まれた。
実の飛んできた方向に顔を向けたナミと、枝の上から見下ろすルフィの目が合う。
「ししし」と悪びれた風もない笑顔を見て、ナミの肩から一気に力が抜けた。
「・・・吃驚させないでよ、もう」
身体を見られていることについては特に拘る風でもなく、ナミは一息つくとルフィを見上げ、ニヤリと笑った。
「見るんならちゃんとお金払いなさいよね! 高いわよ、私は」
「宝払いでもいいか?」
信憑性の怪しい約束に、ナミは渋い顔を見せる。
うーん、と考え込むルフィの目に赤い実がとまった。
「じゃあ、手付けでこれ。美味いぞ」
ルフィは湖へ木の実を投げ入れた。赤い果実が描く円が湖面に広がった。

「あ、ホント! 美味しい、これ」
「だろ?」
喜ぶナミを見て、ルフィもまた嬉しそうに笑った。
笑いながらルフィは湖に実を投げ続ける。赤い実にぐるりと取り囲まれてナミは少し困った風に笑った。
「ちょっと、こんなに食べられないわよ!」
それでも投げるのをやめないルフィを見て、諦めたように肩を竦め、手にした実に口をつけた。
甘い果汁が手のひらから手首へと流れる。
ナミはペロリと手首を舐めた。白い肌を這うその舌は、手にした果実よりも赤く、そして甘そうに見えた。
「美味そうだな」
ルフィの声は落ち着いていた。
「何よ今更。アンタだって食べたんでしょ?」
「違う。お前がだ」
絶句したナミをよそに、ルフィは枝の隙間に麦わらを挟めると、そこから身を躍らせた。
大きな水しぶきがあがる。ナミは目を眇めた。
膝までを水に浸け、ずぶ濡れになりながらルフィは立ち上がる。毛先から水を滴らせる濡れ髪はその黒を増したように見えた。
じりじりと後退していくナミをルフィは静かに追う。
腿から腰へ、腰から胸へと迫る水位を全く気にもせず、ルフィは真直ぐナミのもとへと足を進める。
深みにまで下がっていたナミは湖面から顔だけをのぞかせている。立ち止まる気配を見せないルフィにナミは鋭い声で注意を飛ばした。
「ちょっと待っ!! そっから先は急に深くっ・・・・・!!?」
次の瞬間、躊躇うことなく足を進めたルフィは、ニヤリと笑みを一つ残して水中に消えた。
「ルフィっ!!?」

もがきもせず、ルフィは息を止め、ただ落ちていくままに任せていた。
こんなにも余裕をもって水中からあたりを眺めるのは初めてだった。
キラキラと光る水面と、そこに幾つも浮かんでいる赤い実が綺麗だった。
やがて、その実を掻き分けるように白い手が水をかいた。しなやかに身体を揺らしながらナミは滑り落ちてくる。
そこでルフィの息は限界を迎えた。
ゴボリと吐き出した息で、目の前に大量の水泡が生まれる。
水に呑まれていく。
それでも不思議と視界だけは妙に鮮やかだった。
泡の向こうに、近づいてくるナミの姿が見える。
水の中で流れる髪、揺れる胸。その姿はやっぱり綺麗で。意識を失う直前にも、そんなことばかりルフィは考えていた。

「こ、んのっ・・・馬鹿っ!!!」
必死の思いでルフィを岸まで引きずりあげ、ナミは切れ切れの息でそう呟いた。
そのまま力尽きて、ナミは裸のまま寝転がる。傍らではルフィが四つん這いで盛大に水を吐いていた。
酷くむせながら、それでもすっかり水を吐いてしまうと、ルフィは何が可笑しいのか笑いながらナミの上に身を乗り出した。
「食わせろよ」
そう言ってまたむせて、それでもルフィは笑っている。
溺れて、助けられた後の第一声がこれか。ルフィらしいといえばらしい、が。
ナミの肩が小刻みに震える。笑っていた。
「高いって言ったでしょ、私は。見返りは?」
「これから先の"俺"じゃ駄目か?」
そう言ってルフィは不敵に笑う。
ナミは目を閉じる。未来の海賊王か。それなら信じるに足る。
「その取引は悪くないわね」
そう言ってナミはルフィの首に両腕をまわした。




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L to N. words:食わせろよ by 匿名様

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