字書きさんに100のお題
壊れるほど。溢れさせて。
「貰うわよ」
真夜中に溶けるひっそりとした囁き。
シンクの前に立ってぼんやりと煙草をふかしているサンジの背後から、するりと腕が伸びた。
細い指がサンジの口元から煙草を奪う。
「いいのかい? 吸いかけで?」
微かに笑んでサンジは振り返る。
一度は休んだのだろう。上は見慣れたシャツを羽織っただけの姿で、下はズボンのファスナーを上げただけでボタンも止めていない。
琥珀色に染まったショットグラスをサンジは気だるそうに口元に運ぶ。
「いいの。ちょっと口寂しいだけだから」
艶やかな唇で煙草を挟み、ナミはにこりと笑った。
サンジは無言でグラスを両手で弄びながら、闇を薄める煙を眺める。宙を向いていた視線が、ふとナミの唇へと向かった。煙草を咥える唇。ほんの僅か開いたもの欲しげな隙間に不意に欲情した。
手にしたグラスを一息で空にしてシンクに置く。ナミの唇から煙草を取り上げると、一口それを吸い上げてグラスの中へと落とす。煙草の消える音がグラスの中に響いた。
だったら、とサンジは身を乗り出し、ナミの瞳を覗き込む。
「煙草よりは身体にいいモノ差し上げましょうか?」
一瞬の沈黙の後、大きな瞳が揺らめき、挑むような笑みを形作った。
「ソレだけで満足させてくれたら、お酒よりもずっといいモノあげるわよ」
熱を帯びた視線が二つ、互いを絡めとろうと近づいていく。
触れるだけの口づけを数え切れないほど。
繰り広げられているのは、どちらが先に焦れるかの駆け引き。
口づけを繰り返しながら、二つの身体はじりじりと壁際へと移動していく。やがて、壁に背をついたナミを囲うようにサンジは両手を壁につく。
そのまま、サンジは唇だけでナミを煽る。
柔らかな下唇にサンジが噛みつくと、ナミは知らず喉の奥で甘い鳴き声を上げる。
欲しければねだればいいのに。
からかうような目で見つめるサンジに、ナミは勝気な瞳を向ける。
溢れそうなほど欲しがっているくせに。お互い。
サンジはナミの耳元に唇を寄せる。そして、自らの下半身を擦りつけるようにナミに押し付けた。
余りにも直接的に伝えられた欲望に、ナミは目を見張り、頬を染める。思わず身じろぎした身体を、サンジは押さえつける。
「もう、降参?」
舌でぺろりと唇を拭い、サンジは笑う。
「卑怯者」
「いや、この場合、どっちかってェと正直者でしょう?」
くつくつと笑うと、サンジは何事か言いかけたナミの唇を舌で抉じ開けた。
やがて、ナミの細い指が這うようにサンジの腰を滑り落ち、ファスナーの引き手に触れる。
身体の内側を熱い液体が流れ落ちていく。
もうこれ以上、溢れそうなものをとどめてはおくことはできそうにない。
ジッ
闇に響くファスナーの開く音が、決壊の合図となった。
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