字書きさんに100のお題
61.逃げ回る<ロビン+ゾロ(ナミ)> |
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昨夜からとりかかっていた本を読み終えて、ロビンは気分転換にとキッチンを出た。柵に体重を預けて暫しぼんやりとしていると、階下に一組の男女が姿を現した。
あら、とロビンは内心で声を上げる。それはこの船の航海士嬢と剣士殿だった。
いずれ剣士は自分の存在に気づくだろう、とロビンはそれまでその場に留まることにした。
話の内容までは聞き取れない。ナミが何事か言い、ゾロが笑う。ロビンは口元に小さな笑みを浮かべた。
ゾロに関して言えば、静かな冷たさを伴う視線しかロビンは知らない。その剣士が、自分の気配にも気づかずにこんな風に笑うとは。
年齢の割には落ち着き過ぎている男だと思っていたが、こうして見る笑顔は歳相応のものだった。
ゾロの傍からナミが離れたのを見計らって、ロビンは階段を下りる。
ロビンの姿を見とめると、ゾロの瞳が険しいものとなった。
「あなたは女嫌いなのだと思っていたのだけど」
ゾロの表情の変化を気にせずにロビンは続ける。
「それは私に限ったことなのかしら?」
何事かとゾロは眉を顰めて警戒心を顕わにした。
「それとも彼女だけが例外?」
「・・・・・・何の事だか分からねェな」
すげない返事を気にせずに、ロビンは続ける。
「私を監視してるのは彼女の為でもあるのかしら?」
ゾロは真直ぐにロビンの目を見つめ、はっきりと言い切った。
「俺はてめェを信用してない。ただそれだけだ」
けれど、とロビンは呟くと、意味ありげに自分の手のひらを眺めた。
「夜はあなたの目も届かない」
そう言ってロビンはゾロの目の前で優雅に手を翻す。その瞬間、冴え冴えとしていたゾロの瞳に火が走った。
「アイツに何かしてみろ。地獄の果てまで追っかけて必ずてめェをぶった斬る」
凄まれて、尚もロビンは、ふ、と口元をほころばせた。
「そんなに心配しなくても何もしないわ。この海で航海士を害するなんて自殺行為だもの」
ロビンは開いた指先をゾロの頬に軽く触れさせた。ゾロはほんの僅か身を引く。
「正直な人ね、あなたは」
ゾロはぐっと息を飲む。思うままに本心を引きずり出され、何ともきまりが悪い。
「彼女が好き?」
「うっ・・・・・・・・・・」
「愛してるの?」
「ううっ・・・・・・・・・・・・・・」
「どのくらい大事?」
「うううっ・・・・・・・・・・・・・・」
矢継ぎ早に質問を繰り出すロビンに、ゾロはじりじりと後じさる。
「知るかっ!! 大体、てめェには関係ねェだろうがっ!!」
限界とばかりにロビンに背を向け、ゾロは立ち去ろうとする。その背にロビンは声を投げかけた。
「この船には面白い本が多いから・・・」
「あ?」
今度は何の話だ? ゾロの足がピタリと止まる。
「週に二晩くらいはキッチンで夜通し本を読んでいてもいいと思っているのだけれど」
そこまで言って、ロビンはゾロとは反対側に背を向ける。
「剣士さんには関係ないことよね」
どうしようかしら、とわざとらしく呟きながら歩き出した矢先、ロビンは腕をつかまれた。
振り返ったすぐ先に面を伏せた剣士の姿がある。表情は見えないが、両の耳は真っ赤に染まっている。それを見てロビンは、ふふ、と笑った。
「やっぱり正直な人ね」
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