字書きさんに100のお題


  64.橋<ゾロ> Date:  

ふと気づくと橋のたもとに居た。
いつの間にこんな所に?
それまでの事を思い出そうとしても、どうしても考えがまとまらなかった。
「こいつァ・・・・」
その橋には見覚えがあった。故郷にあったものだ。
ところどころ剥げた朱塗りの低い欄干。金色の飾りは子供の頃に乗って叱られたものだ。
その向こうに引き寄せられるように足は動いた。
ギ、と木の軋む音も昔、よく聞いたものと同じだった。

俺は何をしていた?
何か大事なものを残してきたような、そんな気がするが思い出せない。
足が動くに任せて橋を渡る。橋の半ば程に懐かしい人影があった。

「くいな!!?」
何故だ。駆け寄ろうとした矢先に、くいなが動いた。
あの月の日と変わらぬ仕草で刀を抜き、突きつけてくる。目の前に突き出されたそれは、和道一文字だった。
「まだ、来ちゃ駄目」
「何?」
くいなはそこで刀を鞘に納めると、俺に差し出した。
「約束を、まだ果たしてもらってないから」
「約束?」
刀を受け取る。くいながこちらに近づいて来た。そして、俺の腹のあたりを手でついた。
ほんの僅か押されただけなのに、不思議とバランスを保っていられなかった。俺はよろめき、欄干に足をとられそのまま橋の外へと落ちた。

約束。
そうだ。俺にはまだ約束が――――――


水音がした。
動かない身体を誰かが引きずり上げている。呼ぶ声が聞こえるが目が開かない。
けれど、握った和道の重さは分かっていた。
まだ、こいつを俺に預けてくれるのか? くいな。

刀を抜き、天に向ける。
『おれはもう!! 二度と負けねェから!!!』

あの日もこんな風に泣きながら喚いたな。
『文句あるか 海賊王!!』

お前も文句ねェな? くいな。

[前頁]  [目次]  [次頁]


- Press HTML -