字書きさんに100のお題


  69.幸せ <チョッパー+ナミ> Date:  
快晴の空に澄んだ鐘の音が鳴り響いた。
「何だ?」
ナミと二人、街へと出かけるのにトナカイの姿でいるチョッパーがこっそりと尋ねた。
「行ってみる?」
にっこりと笑って、ナミは鐘の音が鳴る方へと足を向けた。

背の高い古びた建物の天辺で、綺麗に磨かれた鐘が誇らしげに日の光を受けている。
開け放たれた戸口にナミは立ち、チョッパーはその隙間に首を突っ込んで中をうかがった。
建物の中には多くの人がいた。窓からの光が射し込む奥に、初老の男とその前に向かい合う一組の男女がいた。
「汝,その健やかなる時も病める時も、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け―――」
初老の男の言葉を皆、神妙な面持ちで聞いている。
「皆、何してんだ?」
首を傾げるチョッパーに、ナミはしゃがんで耳打ちした。
「結婚式よ」
「へー、これがそうか」
興味深そうな瞳で見つめるチョッパーの前で、新郎新婦は滞りなく指輪の交換を終えた。
新たに夫婦となった二人が出てくるのを、街の人々は建物の前で待ち受けている。
拍手と共に現れた新婦は、はにかむように笑みそれからクルリと後ろを向くと手にしたブーケを投げた。
ブーケが弧を描くと歓声が上がり、そしてそれはすぐに大きな笑い声に変わった。
キョトンとした表情のチョッパー。ブーケはその帽子の上に乗っていた。

ブーケと、それからちゃっかりお土産まで貰って、船へと戻る帰り道。
「ちょっとココで休んでこっか?」
色とりどりの花が咲き乱れる気持ちのいい丘を見つけ、ナミはお土産の入ったバスケットを下ろした。
中にはパンケーキとワインが一本。
「皆には内緒ね」
そう言って笑うと、ナミは二つに割ったパンケーキの片割れをチョッパーに渡した。
人獣型になったチョッパーは、ケーキを手にしたままぼんやりとしている。
「どうしたの? チョッパー」
「え? あ? 何でもない!」
我に返ったチョッパーは慌てたように、一気にケーキを頬張った。
「なあに? 綺麗な花嫁さんが忘れられなくなった?」
笑顔でからかうナミに、チョッパーはブンブンと頭を振った。
「違うよ! いや、花嫁さんは確かに綺麗だったけど・・・・何ていうか・・・・」
口ごもったチョッパーは、その場にペタリと腰を下ろした。
「いいなぁ、と思って。ニンゲンはあんな風に言葉にして、ずっと一緒にいることを約束するんだ」
健やかなる時も病める時も。
動物は違う。病めば見捨てられる。自分は鼻の色が違うだけで捨てられた。

「ねぇ、チョッパー」
黙ったまま、ぼんやりとそんなことを考えていると不意にナミがチョッパーに声をかけた。
チョッパー向かいにしゃがみ込むと、顔を見つめ、片手を軽く上げる。
「私、ナミは健やかなる時も病める時も、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け、命の限り仲間であることを誓います」
それからチョッパーの片手を上げさせ、続いて問いかける。
「トニー・トニー・チョッパー、汝は健やかなる時も病める時も、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け、命の限り仲間であることを誓いますか?」
目を見張るチョッパーの前でナミは小首を傾げる。
「誓いますか?」
「誓います!」
嬉しすぎて胸が潰れそうだった。目の奥が熱く揺れる。泣き出しそうな顔を懸命に引き締め、チョッパーは大きな声で誓いを立てた。
じゃあ、とナミはブーケの花で編んだブレスレットをチョッパーの手首に回した。それから、もう一つ小さな白い花のついた指輪をチョッパーに渡す。
「・・・ハメてもいいか?」
「もちろん」
微笑むナミの薬指で白い花が揺れた。


それから暫くして花は枯れてしまったが、あの時の誓いの言葉を思い出せば、チョッパーの心はいつでも温かいものに包まれる。




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C to N. words:ハメてもいいか? by 鳥さん

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