字書きさんに100のお題
自室で机に向かっているナミの手から、ポトリとペンが落ちた。
通常であれば、揺れる船内で転げまわるはずのペンは落ちたままで、ぴくりとも動かない。
船は大海原で静止していた。
「もう3日よ、3日!」
憤懣やるかたない、といった表情でナミは零す。
「"カームベルト"でもないのに、何でこんなに風がないのよ!!」
大きな音を立ててナミは立ち上がり、ソファに向かう。
やけっぱちのようにソファに身体を投げ出すと、ソファは苦しげな呻き声をあげた。
「あぁ、もう! 本当だったら次の島に着いてたっていいのに!!」
打つ伏せで、組んだ両腕に額をつけ、ナミは足をばたつかせる。
「何荒れてんだよ、お前。生理か?」
「ち・が・う!!」
デリカシーの欠片もない問いかけに、ナミは横目でゾロを睨む。
胡坐をかいたまま、ゾロは壁に背を預けダンベルをせっせと動かしている。
どうしてこの男はこの部屋に来てまで筋トレを欠かさないのか。
それがまた、ナミの癇に障った。
「私はね! 早く次の島に行って、」
ゾロを睨みつけながらナミは喚く。
「イイ感じの服も見たいし! 美味しいもの食べたいし! とにかくあちこち見て歩きたいの!!」
駄々をこねる子供のように、ナミは身体を左右に揺らす。
「んなこと言ったって、何もない島かも知れないぜ、次行く島」
ゾロの冷静な突っ込みにナミは一瞬言葉を詰まらた。
「進まない船ん中で暑苦しい筋トレ見てるよりはずっとマシよぉ!」
もはや泣きそうな声をあげ、顔を伏せたナミを見て、ゾロは溜息をつきながら立ち上がった。
「お前さぁ、あんまりいらいらしてると身体に悪ぃぜ。少し発散させてやろうか?」
ゾロの気配が近づいてくる。
「思い切り動いて汗かけばスッキリするだろうよ」
突っ伏していたナミが顔を上げれば、ソファの肘掛に大きなゾロの手が見えた。
ゾロはナミの背中に覆いかぶさるようにゆっくりと身体を近づける。
ゾロの身体から発した熱が背中へと伝わってくる。
ピアス同士がぶつかる音が微かに聞こえた。
みるみるうちにナミの耳朶が赤く染まる。
駄目押しのように、ゾロは笑い含みの低い声でナミの鼓膜を刺激した。
「俺のでよけりゃいつでも貸してやるぜ」
背中に硬いものが押し当てられる。
「ゾ・・・ゾロ・・・? あんた昼間から何言って・・・!!?」
真っ赤な顔で身を捩ったナミの目の前に、ゾロは手にした物を突きつける。
大きく見開いた目に映ったのは、黒々としたダンベルだった。
「・・・・あ」
しばしダンベルを見つめた後、ナミはゆっくりとゾロを見上げ、ますますその顔を赤くした。
ゾロはそんなナミを見下ろして、ニヤニヤと笑っている。
「何、そんなに赤くなってやがる」
それからわざとらしく、はーん、と頷くと、ゾロは凶悪なほど人の悪い笑みを浮べた。
「お前、今別なこと期待してたろ? このスケベ」
「なっ・・・あ、アンタが紛らわしいことするからっ!!」
「やっぱり期待してたんだな?」
「うっ・・・」
思わずひるんだナミにゾロは顔を近づける。
「折角だから期待に応えてやっか!」
嬉しそうな顔でそう言うと、ゾロはおもむろにシャツを脱ぎ始める。
「ちっ、違〜〜っ!!」
身悶えして反論するナミの口を、降ってきたシャツが封じた。
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