字書きさんに100のお題


  80.雑草<ビビ> Date:  
砂に埋もれてしまったオアシスでの夜。
眠っていたようで、実は眠れていなかったらしい。明日の為にも眠らなくては、と夢うつつの中で何度も繰り返している最中に扉の開く音でビビは目を覚ました。

トトが外で眠ってしまったルフィを運んできた。そっと寝かせ、砂のついたままの体に毛布をかけている。
すっかり変わってしまった面差しの中で微笑む目元だけが変わらない。
幼い日、遊びつかれて眠りについた子供達にもそんな笑顔を見せていた。そっと目を開けて見るトトの優しい顔がビビは大好きだった。
そして、そんな昔を思い出せば胸は引き裂かれるほどに痛み、ビビは強く目を瞑った。そうしないと涙が溢れてしまう。

泣かない、と決めたのだ。
死なない覚悟を決めたのと同じその時に。


皆を起こさないように足音を殺してビビは外に出た。宿の壁に背を預け、ビビは夜空を見上げた。
砂を掘る音ももう聞こえない。トトもようやく休んだのだろう。


砂漠の夜は冷える。天を仰ぐビビの肌を冷気がしん、と包む。
それと同時に砂漠の夜は美しい。月の光と星の瞬きだけが昔と変わらずにいてくれた。
けれど、地上に目を向ければ目に映るのは、枯れた緑、海に侵された川、沈んでしまったオアシス。
そしてもう何も語らない野晒しのままのされこうべ。
それが今日見てきた全て。この国の現状。

荒廃という言葉が自然と脳裏に浮かぶ。足元を見つめ、ビビは唇を噛んだ。

憎い。辛い。悲しい。憎い。憎い。憎い。
この国をこんな風にした元凶を全身全霊をもって私は憎む。

真黒な感情に押し潰されていくビビの目が、ほんの僅かな緑の姿を捉えた。壁と砂の隙間から細く、ささやかに伸びた草。

ビビはその場に膝をつく。そして、慈しむようにそっとその草を両手で包んだ。
ぽつり、と手の合間をぬって涙が落ち、草の根元へと吸い込まれていく。
心の箍が外れてしまったように涙が溢れて止めることができない。声を殺すのが精一杯だった。


ごめんなさい。ごめんなさい。
泣いてしまって、約束を破ってしまってごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな場所でも精一杯に生きてくれる綺麗な命。
それを、こんなにも汚れてしまった自分が流す涙で濡らしてしまって。

けれど、私には私しかあげられるものがないから。



唇を噛んだまま、声も出さずにビビはただ涙を流す。
落ちた滴は、緑の葉を伝いその先端へと流れていく。

まるで、いいのよ、と頷くように名も知らぬ草はその葉先を優しく揺らした。

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