字書きさんに100のお題


  81.足元<ゾロナミ> Date:  
全く。ちょっと目を離すとすぐこれだ。
久しぶりの上陸で、久しぶりに二人で出かけたというのに。

新しい下着を物色するのに流石に店内までゾロは連れて行けず、少し離れた所で待たせていた。
ナミが、二割引の商品を更に一割五分まけさせて、上機嫌で戻ってみると。
ゾロは一人ではなかった。
引っ掛かったのか、はたまた引っ掛けられたのか。
そこにいたのはゾロ一人ではなかった。正確に言えば、一人と一匹。

「アンタって職業選択を間違ったのかも」
「あ?」

のどかで気持ちのよい公園のベンチに腰掛け、ゾロとナミは近くで買ったホットドッグを齧っている。
ゾロの足元には、綺麗な茶色い毛並みの子犬がちょこんと座っている。
ホットドッグの欠片を与えているうちに、ゾロときたら「お預け」と「よし」をこの犬に覚えさせてしまったのだった。

子犬の前にホットドッグの欠片を置いて、ゾロは「お預け」と、手を広げた。
目の前のごちそうとゾロの顔を交互に見つめ、子犬は健気に「待って」いた。
やがて切なげな声でおねだりした子犬にゾロは笑って「よし」と告げる。
勢い込んでホットドッグに噛みつく子犬の頭をゾロはくしゃくしゃと撫ぜた。

「こんだけ動物に好かれてんだもん。サーカスにでも就職すればよかったのよ」
ナミの言葉に、ゾロは肩を揺すって笑い出した。
「今だってサーカスにいるようなモンじゃねェかよ」
考えてみればそうだ。
「ゴム人間に、サンジ君はアレね、包丁でジャグリング」
想像するとそれは如何にもありそうで、ナミも声をあげて笑った。その後をゾロが続ける。
「ウソップにはそうだな、チョッパーの頭の上にリンゴでも置いて撃たせるか?」
「やばそうだったら、縮めって?」
大慌てで体を縮ませるチョッパーが目に浮かんで、笑いが止まらなかった。
「アンタは調教師ね」
だったら、とゾロは身を屈め、指先で子犬をじゃらしながら言った。
「テメェも調教してやろうか?」

調教ねぇ。

ナミは子犬に目をやる。仰向けになって、丸出しの腹を擽られて大喜びの子犬。

想像してみる。
ゾロの足元に纏わりついて、何でか知らないけれど妙に気持ちのいいあの指先であちこち弄ってもらったり。
意地とか見栄とか、そういった面倒くさいものを一切捨てて。
無条件で甘やかされて、たまにはオイタをして叱られてしょんぼり項垂れてみたり。
そんなに悪くないかな。

「おい、冗談だからな」
子犬を抱き上げながら、そう言ったゾロの顔を見てナミはふき出した。
「やだ。アンタ、ケチャップついてる」
馬鹿笑いしながら食べていた所為だろう。ナミは自分の口の脇に指をあて、その場所を示した。
あぁ?と拭おうとすれば、匂いを嗅ぎつけた子犬が舐めようと体を伸ばした。
「おい、ちょっと待て、待て!」
あたふたと子犬を遠ざけようとするゾロの口元に、今度はナミが顔を寄せた。
「お前もっ!? ちょっ、待て! お預けっ! オイっ!?」
どちらに向けた言葉やら、周囲の目を気にして慌てるゾロに構わず、ナミはペロリとケチャップを舐め取った。

世の中の動物の全部がアンタの言うことを聞くと思ったら大間違いなのよ。




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Z to N. words:お預け by 真牙様

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