字書きさんに100のお題
いつもとは雲泥の差の寝心地のベッド。
無条件の安心感にコーザはゆっくりと泳ぐように手を伸ばす。
―?―
夢うつつの意識の中、指先に違和感を覚えた。それは不快なものでは全くなかったが。
布団とは違う手触り。
長い長いそれはしなやかな絹のようで、これで織った布はさぞかし上等なものになるだろう、コーザはあまり回らない頭でそんなことを考えていた。
「ん・・・・・」
小動物を思わせる控えめな声が聞こえてきたかと思うと指先の絹がさらりと流れていく。
思わず追った指先にまた別の感触。
陶器の花瓶を思わせるような滑らかなくびれに触れる。
時折手に絡みつく布のようなものを邪魔に思いながらコーザは更に上に向かい、手を動かす。
滑らかさはかわることなく、ただ手に感じる弾力だけが変わった。
柔らかで、温かな・・・・そう、まるで―
―女の胸みたいだ―
そう思い至った瞬間、コーザは突然覚醒した。
半身を起こし、勢いよく布団をめくる。
横を向いて自分と向かい合うようにビビはいた。
すっぽりと布団の中に入って、コーザの胸元に額を当てるようにして寄り添っている。
すっかり捲り上がった夜着からすらりと伸びた脚。
顕になった白い胸元。
問題は捲り上げているのが自分の手だということだった。
「うわぁっ!」
慌てて後ずさったコーザは勢い余ってベッドから転げ落ち、派手に床を鳴らした。
―落ち着け。落ち着いて考えろ―
コーザは頭を振り、ことここに至った経緯を思い出そうとする。
久方ぶりに訪れた王宮。
各地を渡り歩いて調査した復興の進み具合を王に報告し、どの地区にどれだけの人員を配するかを話し合った。
話し合いを終え、辞する段になって突然見舞われた雷雨に、今日は王宮に宿を借りることになったのだった。
しりもちをついたまま呆然とするコーザに、ベッドの上からのんびりとした声がかけられた。
「あれ? どうしたの、コーザ? もう朝?」
ベッドから身を乗り出し、ビビは無邪気な顔をコーザに見せる。
「お、お、お・・・おまっ! 何でここにっ!!」
狼狽するコーザとは対照的にビビは平然としている。
「昨日、雷なってたでしょ? で、一人じゃ怖くて」
「一人ってカルーはどうした、カルーは!?」
「いるわよ」
直後、ベッドの下からカルーに顔を出され、
「ぎゃあっっ!!」
コーザは再び叫んだ。
ベッドに腰を下ろし、コーザは頭を抱えている。
「ごめんなさい、コーザ。そんなに吃驚するなんて思わなかったんだもの」
ビビはコーザの顔を下からのぞき上げるようにして見、続けた。
「いつもならパパの所にでも行くんだけど、今日はコーザがいるから」
父親代わりにされたことを嘆くべきか、父親と同じくらい頼りにされたことを喜ぶべきか。コーザは複雑な心境だった。
「全く、男のベッドに潜り込む王女がどこの国にいるんだ」
隣でビビは唇を尖らせる。
「昔はよく一緒に昼寝したじゃない」
「今はガキでもなきゃ、昼でもないだろ」
溜息交じりの言葉を聞いて、ビビはじっとコーザを見つめる。
「子供じゃないって、本当にそう思ってる?」
そう言って蠱惑的な笑むビビは、確かに女の表情をしていた。
コーザはビビから目を話すことが出来ず、やがて降参とでも言うように笑う。
「どこで覚えてきた? そんな顔」
「内緒」
くすくすと笑うビビの頬に手を添えると、コーザはゆっくりと顔を近づける。
「ったく、こんなとこ王に見つかったら今度こそ俺は殺されるな」
笑うビビの唇に、触れようとした瞬間、
バンッ!!
勢いよくドアが開け放たれる。
「どうした、コーザ!?」
「賊か!?」
物音を聞きつけてやって来たのはペルとチャカ。
そして、その二人の間で呆然とこちらを見ているイガラムと・・・・コブラ王。
「うわぁぁぁぁっ!!!」
三度目にして最大の悲鳴が夜の王宮に響き渡った。
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