ね : 願わくはどうか <ゾロ> | Date: |
すっかりと手に馴染んだ柄の感触。それは変わらない。だが、鞘から抜いた刀からはいつもの重みが失われていた。食い千切られたような刀身には無残な錆の痕が残されている。
「まいったな」
掲げた愛刀を前に、ゾロは途方に暮れたように呟いた。
刀は持ち主を選ぶという――
そんな言葉と共に、己に刀を託した店主の顔が思い出された。
目の前の刀をゾロはじっと見つめる。
初めて振るった時の滑り出すような手応えは、最期まで変わることはなかった。
雪走と銘打たれたその刀は、最早この世のどこにもない。同じものは二つとない、ならばそれは死別と同じことだ。
持ち主を選ぶ、か。
ゾロは刀を掲げたまま、両の目を閉じる。
最期の使い手が俺で満足だったか? 雪走よ。
命を終えた刀は何も語らず、そうであれば、と願いにも似た気持ちでゾロは静かにそれを鞘に納めた。