あいうえお44題
ひ : 独りじゃないと言って <ナミ+ロビン> |
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甲板に佇むロビンの背をナミは見ていた。
何故だろうか。その背中が、ナミにはやけに遠くに見える。
厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くは―――
先の島で海軍大将が放った言葉が、忌々しいほどの鮮やかさで蘇り、ナミは唇を噛みしめて何度も首を振った。
ナミはロビンに近づく。その気配に気づいたロビンが早々に振り向き、いつもと変わらぬ静かな笑みを見せた。
「元気ないんじゃない?」
「そんなことないわ」
そう言って、ロビンは再び海へと視線を向ける。その背に向かってナミは口を開いた。
「頭がいいと大変よね、お互い。余計なことまで考えちゃうから」
ナミはロビンに一歩近づく。
「けど、この船にいるのはバカばっかりで、どうやったって厄介ごと持ち込んでくるヤツしかいないのよ?」
それに、と背後から伸びた手が、そっとロビンの手を包んだ。
「アンタはもう独りじゃないんだから」
その言葉にロビンが振り返る。
「そう―――」
黒い瞳が大きく見開かれる。まるで思いも寄らなかった真実にようやく気づいたような、そんな顔をロビンは見せた。
この世に生まれて一人ぼっちなんてことは絶対にない。
それはもう二十年も前の事。
あの優しい巨人が教えてくれた言葉。
裏の世を渡り歩くにつれ、疑念を抱きながらも、捨てきれずにいた言葉。
ずっとずっと、欲しかった言葉。
「私は・・・・もう・・・独りではないのね・・・」
俯き加減で、自分に言い聞かせるように繰り返したロビンは、とても幸せそうに見える。
「嬉しいわ。ありがとう」
ロビンは口元を綻ばせ、ナミを見た。
やさしい顔。
けれど、その微笑みは余りにも透き通っていて、まるで別れの言葉を告げられたようにナミの胸は痛んだ。
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