あいうえお44題
情事の火照りを残したままの身体がゾロの腕の中で身じろぎした。
汗ばみ、ぴたりと吸いついていた肌と肌がまるで裂かれるように離れていく。新たに外気に晒された場所がやけに冷やりと感じられた。
「どうした?」
ゾロの問いかけにも無言のまま、ナミは身を起こす。ぱさりと軽い音をたてて薄い掛布が滑り落ちた。
目を閉じ、耳を澄ます。
ナミのその姿はまるで彫像のように美しかった。
「潮の流れが変わった」
低く呟くとナミはするりとベッドを抜け出す。
暗い室内に仄白い裸体が浮かび上がる。目の前から離れていく細い腕を、ゾロは思わず身を起こし、掴んだ。まるで闇に溶けてしまいそうな気がして。
振り向いたナミの目に、どこかバツの悪そうなゾロの笑みが映る。
「行くな・・・っても無駄だな」
苦笑混じりの声音に、ナミは肯定の笑みを返す。
それを見たゾロは小さく息を吐き、掴んだ手を離した。
「俺はたまにてめェを斬り刻んで食っちまいたくなる」
挑発的な目で、だが些か自嘲気味にゾロはそう言い、それから脱力したようにどさりとベッドに横たわった。
その言葉に、ナミは僅かに目を見張り、それからうっとり目を細め、妖しい笑みを口元に乗せる。
仰向けで寝転がっているゾロの首に、ナミはそっと右の指を這わせる。ゾロの視線がちらりとそちらを向いた。続いて左の指を。
硬く太い首に、ほっそりとした十の指が巻きつく。
じっと見上げてくるゾロにナミは艶やかな笑みを落とす。
「偶然ね。私もよくそう思うわ」
そう言ってナミは身を屈め、僅かな息苦しさと柔らかな唇をゾロに与えた。
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