あいうえお44題
ま : 間違い探しの恋 <ナミ+ビビ> |
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「理想の恋人ォ?」
鏡に向かって湯上りの濡れ髪を乾かしていたナミが振り返った。
「えぇ。その条件ですって」
先に風呂からあがっていたビビは、ベッドに腹這いになって雑誌のワンコーナーに目を落としている。
シンプルな白のキャミソールに、揃いのショーツという、一国の姫君とは思えないしどけない格好ではあるが、海賊暮らしの気ままさに、女同士の気安さもあってすっかりと開放的な雰囲気に馴染んでいる。
「何か色々とチェックポイントがあって面白そうなの」
「どれどれ?」
被っていたタオルを首にかけ、ベッドに歩み寄るナミも似たような格好だが、受ける印象は大分異なる。
光沢のある黒のインナーを身につけたナミは、寝転ぶビビの頭の先に腰を下ろして雑誌を覗き込む。その様子は、魔女と天使がなにやら密談をしているようにも見えた。
やたらとカラフルな文字の躍る紙面に『理想の恋人・その条件!』という文字がある。
紙面に視線を落としていたビビがナミを見上げ、質問の項目を読み上げる。
「安定性あり?」
「ぶーーーー!!」
即決でナミは指で小さなバツ印を作る。それを見たビビは、じゃあ、と隣の項目を読み上げた。
「経済力」
「ダメーーー!!」
いっそ清々しい表情で、ナミは両手でバツを作った。そんなナミを見上げて、からからと笑ったビビが再び紙面に目を向ける。
「じゃあ、次は・・・・」
文字を目で追った途端、ビビの動きが止まった。
―――――?
ナミが小首を傾げる。尚も止まったままのビビの前にナミの手がひょいと伸び、雑誌を取り上げた。
「あっ!?」
取り返そうと、ビビが慌てて伸ばした手を片手であしらい、ナミは目の前に雑誌を掲げる。
「なになに・・・?」
ビビの読んでいた箇所を探し、ナミはその部分を読み上げた。
「"身体の相性"・・・ねぇ」
ビビが口ごもったのも頷ける。納得したナミの顔に、すぐに小悪魔的な笑みが浮かんだ。
「なるほどなるほど」
雑誌をポイと背後に放り投げると、ナミはビビの方へコロリと身体を倒した。
俯いたままのビビの顔を、下からじっと覗き込む。
「・・・・で? アンタはどうなの?」
「――――!!」
ガバリと上げたビビの顔は真赤だった。楽しそうなナミの顔を見て、ビビは何度も口を開けては閉じし、やっとという様子で声を絞り出した。
「ナ、ナミさんこそ、ど、どうなのよっ!?」
「良いわよ。すっごく」
しれっとした顔でそう言うと、ナミは余裕の微笑みをビビに向ける。
思わず絶句したビビは、じっとナミを見つめる。黒のキャミソールの胸元にのぞく豊かな谷間。女の目から見ても、惚れ惚れするような身体を抱く男の手が頭に浮かび、ビビは一層その頬を赤くした。
「なーに考えてんのよ?」
ニヤリとしたナミはベッドの上を転がり、ビビに寄り添うように身体を近づけた。
「けど、まぁ聞くだけ野暮だったかしらね」
「え?・・・・・きゃぁっ!!?」
尻から腰にかけてをぞろりと撫で上げられてビビは悲鳴を上げた。ナミの手はいつの間にかキャミソールの中に潜り込み、腰の辺りを撫で回している。
「何だか最近この辺りが色っぽいもの。ぐっと」
「やだやだ! ナミさんやめて! くすぐったっ!!」
「あーらイイ感度」
身を捩って逃げようとするビビを、ナミが追いかける。ベッドの上でキャアキャア言いながら転がる二つの身体が不意に消えた。
どさどさという音と共に、二人は床の上に折り重なるように落下した。
「いったァ・・・」
「アイタタタ・・」
下になったビビが頭を、上になったナミが腕をさすりながら顔を顰めた。ふと気づくと、ナミの目の前に先ほど放り投げた雑誌が落ちている。奇しくも、件の『恋人の条件』のページが開いていた。
ナミはクスリと笑い、ビビを見る。
「それにしても一番大事なことを聞いてないわね、この記事」
「一番大事?」
ビビの上でナミは微笑む。
「勿論、その男に心底惚れてるかってことよ」
「それは?」
ビビが笑いながら問いかける。
「間違いなく?」
ナミもまた満面の笑みで、ビビの額にコツリと自分の額をぶつけた。
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