あいうえお44題


  み : みつからない <ゾロナミ> Date:  


燦々と降り注ぐ陽光の下、吹く風に甲板の芝がそよぐ。その上で大の字になって、気持ちよさ気にいびきをかいていたゾロが、不意にその目を開けた。
眠そうな目を擦りながら身体を起こし、ゾロはキョロキョロと辺りを伺う。眠りにつく時には目の届くところにあったオレンジの頭が今はどこにも見えない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
大欠伸をしながらゾロは立ち上がると、そのままふらりと歩き出した。

通路を兼ねた医務室の扉が開き、中で雑談をしていたサンジとチョッパーの間を、ゾロが欠伸をしながら通り過ぎていく。キッチンへと消えたその背を、何とはなしに見送ってから二人は話に戻る。二人が話に興じていると、同じ扉がまたも開いた。
「・・・・何やってんだ? テメェ」
訝しげに眉を顰めたサンジに、ゾロは憮然とした顔を向ける。その表情にどこか困ったようなものを感じたチョッパーが、ふと思いついたことを口にした。
「ナミなら測量室にいるぞ」
それを聞いたゾロは、チラリとチョッパーを見てきまり悪そうに頭を掻いた。
「あーーーー」
否定とも肯定ともつかぬ声を上げてゾロはキッチンへと消えた。

その扉が三度開く。
目を瞬かせる二人の間を、ゾロは無言で通り過ぎていく。その姿が見えなくなると、サンジとチョッパーは互いに顔を見合わせた。
「俺、勘違いしたかな? ナミ探してるんじゃないのかな?」
「いや、違わねェだろ。ありゃあ・・・」
サンジが頬を引き攣らせる。肩を竦めながらサンジは続きを口にした。
「ただ単に、迷ってんだろ」
そういい終えるや否やサンジは何か思いついたらしく、ニヤと不穏な笑みを浮かべ、壁に立て掛けてあった洗濯用の大きな金ダライを抱え上げた。
「ちょっと待ってろ」
そう言い残し、サンジはキッチンに抜ける扉を開け、中を覗う。ゾロがいないことを確認し、金ダライを片手にサンジはキッチンへと消える。

少しして戻ってきたサンジは手ぶらだった。
「・・・何してきたんだ?」
尋ねたチョッパーに、妙にいい笑顔をサンジは見せ、口を開く。だが、近づいてくる足音を耳にすると、しい、と口元に指をあてた。

扉が開くと、果たしてそこにはゾロの姿がある。サンジはがらりとその表情を変えると、ゾロに目をやり、苦々しい口調で語りかけた。
「おいコラ、迷走マリモ。ぐるぐる回ってんじゃねェぞ。クソ鬱陶しい」
「・・・・・あぁ!?」
ゾロが眼光鋭くサンジを見返す。すわ乱闘かとチョッパーが身構えたその時、突然、サンジがその表情を和らげた。
「測量室ならてめェが今入ってきた方だ」
意外にも親切なところがある、と感心しかけたチョッパーだったが、その続きに言葉を失った。
「いいか、よく聞けよ。そこ出て、左向いてすぐの扉を開けやがれ」
そこはどう考えても測量室ではなく、食料庫である。
サンジの案内に、ゾロはむっつりとしながらも大人しく背を向け、その場を後にした。扉が完全に閉まると、サンジは堪えきれないといった風に、小刻みに肩を揺らして笑い出した。
「何で、あんなデタラメ言ったんだよ?」
きょとんと見上げるチョッパーに、サンジは満面の笑みで答えた。
「ま、愛の試練ってヤツだ」

ここか―――
扉の前にゾロは立っていた。
サンジに助けられるのはしゃくに障るが、何度やってもどうしてか同じ扉を開けてしまうのだから仕方ない。
言われてみれば、この扉は開けていなかったような気がする。
ゾロは、扉に手をかける。押し開けた扉の先はやけに薄暗い。
「・・・・・・・・?」
訝しげに中を覗きこんだその時。

くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

サンジの仕掛けていたタライがゾロの頭を直撃した。

「ぶははははははははっっっ!!!」
医務室にも高らかに響き渡った澄んだ音色に、サンジは腹を抱えて爆笑した。

「いやー、笑った笑った」
ひとしきり笑うと、サンジは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、満足気な顔でキッチンへと消える。
半ば呆然とその姿を見送ったチョッパーの耳に、隣室から乱暴な足音が聞こえてきた。すぐにこちらに向かうと思われたその足音は、何故か一度遠ざかってからまた近づいてきた。
そして、壊れんばかりの勢いで扉が開く。
「どこ行きやがった!! あんのド畜生!!!」
猛獣もかくやと思うほど、危険な眼差しのゾロの頭には、見事なこぶが乗っていた。


「・・・・ん・・・・あれ?」
いつの間にか眠ってしまっていた。
測量室に備え付けの大きな机の上に突っ伏していたナミは、ゆっくりと身を起こすと、組んだ両手を反らすようにして思い切り腕を伸ばした。
首筋を伸ばしながら、頭を回す。その顔が横を向いたその時、ナミは目を丸くした。
「何でこんなとこで・・・・?」
机の側面にもたれるようにして、ゾロが丸くなって寝ていた。
「って言うか・・・・」
何でこんなにボロボロなの?

首を傾げるナミの隣で、ゾロは安らかな顔でいびきを一つかいた。

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