あいうえお44題


  き : きずあとのきず <サンジ+ゾロ> Date:  



トレーニングを終えてシャワーを浴びてきたらしいゾロは、上半身裸のまま、バスタオルを被って戻ってきた。
「こっち向くなハゲ」
ソファの肘掛に頭を乗せて寝そべり、何やらいかがわしげな雑誌を開いていたサンジは、男部屋へと降り立ったゾロを見て嫌そうに目を眇める。
「あァ?」
唐突かつ理不尽な言いがかりに、ゾロは険を込めた眼差しを雑誌の奥に覗く瞳に向けた。
何か言おうとしたゾロに先んじ、サンジが更に罵言を浴びせる。
「そのむさい身体を俺の視界に入れるなってんだボケ。折角オネエサマのナイスバディを記憶に刻み込んだっつうに」
「知るか!」
吐き捨てるように言ったゾロは、サンジの手にしている雑誌を見て、益々その顔を顰めた。
「つーか、てめェ勝手に人の本触ってんじゃねェ」
「げっ!!?」
ズカズカとソファに近づくと、威圧的な目でサンジを見下ろして、ゾロはひったくるようにして雑誌を取り上げる。
「ヤーベェヤベェ。よーかったぁ。使わなくて」
「何にだアホ」
大げさにほっとしてみせるサンジを一睨みしてからゾロは呆れたように溜息をついた。
その辺に雑誌を放り、そっぽを向きながら、ばさばさと乱暴に髪の水気を拭き取っていたゾロは、ふと寄せられる視線に気づいた。不意をつくように手を止め、ゾロは視線を下に向ける。ゾロの胸元に視線を置いていたサンジが弾かれたように更に顔を上げた。二つの視線がぶつかる。
「・・・・・てめェこそ何見てやがる」
一瞬、しまったと言うような顔を見せたサンジは、だがすぐに片頬を歪めて口を開いた。
「不細工だなと思ってよ」
「あ?」
「お前のコレ」
サンジは空になった手を伸ばす。繊細な料理を作る指先が、歪な傷跡をなぞった。思いもかけないサンジの行動にゾロはぎょっと目を剥く。
「触んじゃねェ。気色悪ィ」
「気色悪ィのはこっちだっつの。見苦しいんだ。とっとと服着ろ、ダァホ!!」

躊躇うことなく命より野望を取った。その証の傷。
それを見るにつけ、サンジの心中に苦いものが込み上げる。野望を捨てることなどなんてことないと嘯きながら、未練がましくその尾っぽを握り締めて生きていた自分を思い出させる。
ちょっとした後悔と気恥ずかしさと、それに嫉妬だの羨望だの尊敬だのという、まぁ余り自覚したくない気持ちをも抱かせる傷跡。

見てる俺が痛ェんだよ。

何でもない風を装ってゾロを蹴りつけながら、サンジは密かに苦笑を浮かべた。

[前頁]  [目次]  [次頁]


- Press HTML -