*については裏書庫に続きがあります。
表書庫


  Cigaret kiss* Date: 2003-09-26 (Fri) 

小さな折りたたみ椅子と灰皿を買った。
今まで角っこで小さく出待ちしていた椅子の、今日は出番。
カタンと組み立てて灰皿をその上に乗せてやると、ベッドの中で一服中の男が気づいて、
にーっこりとした。

「うれしーですよ、ナミさんv それって俺のためのでしょvv」
まぁ、それは間違いじゃないんだけどね。

今までは、私の部屋では飲んだ後の缶とか瓶とかに捨ててたのよ。
吸殻を。
でも、それだと底に残ったお酒で、捨てた時に音がする。


―ジュッ―


昔、一人でいた頃はその音が心地よくて、わざと水につけて消してた。

―ジュッ―


火の消える音。終わりを告げる音。


今は、彼と一緒の時にそんな音聞きたくないなぁ、なんて心の変化に自分でホントに
吃驚する。


だから、コレはどっちかって言うと―


「ううん、私のため」


あ?と固まる彼。うーん、可愛い、可愛い。
思わずゆるむ顔を必死でひきしめ、床に脱ぎ捨てられたスーツのポケットを手早く探る。
指先にお目当てのモノの感触。
それからするりとベッドへ潜り込む。
うつ伏せで、両肘をついて彼を見ると、どうも釈然としない顔をしている。
私はちょっと下を向くと、さっきポケットからスったモノを口に咥えて彼に向きなおる。
商売柄、こんなことはお手のものだ。
彼の目には、手品みたいに煙草が現れたように見えたろうな。
案の定、本日2度目の、あ?
彼の無防備な顔ってホントに可愛いけど、私だって負けてられない。

「んーーーv」

目を閉じてキスをねだるのと同じ仕種をする。
と、彼も察したみたい。

煙草の先端同士が軽く触れ合う。


―ジジッ―

同じ煙草から出る音なのに、今の私にはこっちの方が心地いいなぁ。


―ジジッ―


灼熱が移る音。始まりを告げる音。
実は、こんな風に煙草に火をつけてもらったのは初めて。
これもファーストキスって言っていいもんなのかしら。
なんて考えてたら、少し吸いこみすぎたらしい。むせた。

笑いながら背中を擦ってくれる、大きな手が心地いい。
「あなたには、ちょいとキツいですよ、こいつぁ」

・・・まぁ、そういうことにしとこう、緊張してたなんて口が裂けても言えない。

「・・でも、不思議よね・・・コレ、こんなに苦いのにサンジ君からは甘い香りがするのよ...」

と彼はつい、と腕を伸ばして煙草を灰皿に押しつける。
そのまま私の背に覆い被さると、私の口から煙草を取り上げ灰皿へ。
燻る煙が2本並んで昇っていく。

耳元から甘い香り。
「教えてあげましょうか?」

さらさらと後ろ髪を梳きながら、彼は続ける。
「それは...あなたの所為ですよ、ナミさん。あなたが俺の胸を甘く溶かすから...」


うなじに柔らかい唇の感触。

―なるほどねぇ―

強まる香りに、私の口からでたのは甘い溜息。
2本並んだ煙草の煙が甘い微風にゆらりと揺れ、溶け合い1つになった。




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