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表書庫


  久遠の翼 Date: 2003-09-26 (Fri) 


翼があったなら―


そう思ったことは何度もある。

例えば、自分の身代わりとなった人が目の前で焼かれた時に。
大いなる川が行く手を阻んだ時に。
ようやく巡り合えた幼馴染が銃弾に倒れた時に。
自分が城壁から落ち行く時に。
そして、止めねばならないものが手の届かぬ所にあった時に。


翼があれば飛んでいけるのに―



それでも

私の体はいつでも地に繋がれ、飛ぶことなど叶わない。

だから

今も私にできることはただ手を伸ばすことだけで。



翼を持つ貴方を止めることなどできはしない。





ありがとう、と言いたいの。

私が泣いたら、貴方は悲しむでしょうから。
だって、貴方は最後に微笑ってくれたから。
幼い頃から見続けた、変わらぬ優しい微笑で、いつものように。
そして、きっと微笑って逝ったんでしょうから。


ありがとう、と言わなくてはならないのでしょう。




それでも、分かっているけれど。


貴方と共に飛ぶことはもうできない―



そう思うと

喉の奥が痛くて・・・熱くて・・・


声が、出ない。


だから、今は少しだけ泣いてもいいですか?


兄とも慕った貴方の為に―





翼なくしても飛べる世界へと、独り飛び立った貴方の為に―




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