*については裏書庫に続きがあります。
表書庫


  3.葉の話 Date: 2003-09-26 (Fri) 


切り落とした枝を集めているナミの元に、風にのって届いたのは煙草の香り。

顔をあげると香りに遅れること数秒で、風に揺れる金髪が目に入る。
いつもと変らないにこやかな表情で近づいてくるサンジ。
右手には、銀のトレー。
その上には、汗をかいたグラスが2つのっている。
「どうしたの、今日は?いつもならとっくに休憩してる時間じゃない」
ナミにカップを手渡すと、サンジは煙の行き先を見てからその横に腰をおとす。
煙がナミの方に向かわないように。彼一流の心遣いである。
ナミの問いかけに、サンジは苦笑する。
「刃物振り回す馬鹿野郎に邪魔されちまってね。時間食っちまっただけですよ」
あー、マジで疲れたーと言いながら、片手でネクタイをゆるめ、煙を吐き出す。
「まぁ、あの馬鹿の話は置いといて、ナミさんが俺のことを待ってて下さったとは嬉しい限りですね」
嬉しそうに、何度も頷きながらサンジは言う。
頷き続けるサンジの額に指をあてて、ナミはその動きにストップをかける。
別に待ってた訳じゃないわよー、何か今日みんなヘンだから気になっただけ」
「あいつらがオカシイのは今に始まったことじゃないですから」
にやにやしながらサンジは言葉を続ける。
「折角2人きりなんだから、もっと俺のこと見て下さいよ」
この船の野郎の中で唯一の常識人の俺を、と自慢げに親指で自分を指差す。
ナミは苦笑しながら、額にあてていた指でサンジの額を軽く小突く。
「違うわよ、サンジ君。この船の男性クルーで常識人って言えるのは、チョッパーくらいよ」
俺もあいつらと同じレベルですかァ、サンジはがっくりと肩を落とす。
サンジの煙草とその煙は、持ち主の気分を如実に映し出すようだ。
ナミの眼には心なしか、萎れているように見えてしまう。
そんなサンジとその相棒を見て、ナミは思わず体を折り曲げて笑ってしまう。

楽しげなナミの様子を、優しげな眼差しで見つめていたサンジは、そよぐオレンジの髪の端に異物を発見する。
「あ、ナミさん、動かないで」
サンジはナミの髪にそっと触れる。
はい、とナミの前にかざしたその手に挟まれていたのは、みかんの葉っぱ。
「ナミさんにかかれば、こいつも立派な髪飾りに見えちまうんですけどね」
にっこりと笑いながら、その葉を落とす。
「その代わりと言っちゃあ、何なんですが...」
と差し出した手にはやはり鍵が。
「なぁに?って聞いても教えてもらえないのよね、きっと」
「教えて差し上げたいのは山々なんですが...」
悪戯っぽい微笑みと共に、サンジはナミの目を見つめる。
「教えちまったら、俺ァ、ナミさんの口を塞がなきゃならねぇ。」

サンジは足元に煙草を落とし、靴底で踏む。
そして、ナミの瞳を覗きこむ。さっきまでとは違う真摯な瞳で。
「お許し頂けますか?」
ナミが口元をほころばせながら何か言おうとした瞬間。

「サンジー、たーすーけーてー」
甲板からチョッパーの悲鳴。
その声にサンジの体から一気に力が抜ける。
さり気なさを装いつつも、僅かに纏わらせていた緊張が一気に崩れたようだ。
サンジは律儀にも、どたどたと騒がしい階下へと身をのりだす。
見ると、ルフィがチョッパーを追いまわしている。
「待てーーっ ! にぐーーーっ !!」
溜息をついて顔を見合わせるナミとサンジ。
どちらからともなく笑顔になる。

「早く行ってあげて、サンジ君。唯一の常識人が食べられちゃうわ」
「仰せのままに...」
胸に片手をあて優雅に一礼すると、先程落とした吸殻を拾う。
のんびり階段を降りながら、サンジはがらりと口調を変え大声を出す。
「よー、チョッパーっ、すぐ支度するからなー、それまでクソゴムのおやつになってろー」
無情なサンジの台詞に船尾から、チョッパーの悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「・・・みんな、きらいだーーーっ !!」

広い海原に響きわたるチョッパーの絶叫とナミの笑い声。
消えゆくその声を追いかけるように今日も夕日は沈んでいく。
サンジの鍵にオレンジの光をあてながら。






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